欧州産業界、EU・米国の共同声明を歓迎、製薬や農業部門からは厳しい声も

(EU、米国)

ブリュッセル発

2025年08月27日

EUと米国が8月21日に発表した関税合意に関する共同声明(2025年8月25日記事参照)について、欧州産業界は合意内容の明文化を評価しつつ、関税適用対象外の製品拡大や影響緩和策の実施などを要請した(注1)。

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、合意内容が明確になったことを歓迎すると同時に、EUに対し、関税撤廃の対象製品の拡大に向けた米国との協議継続に加え、経済への影響緩和のため、企業の規制順守に伴う負担の軽減やエネルギーコスト低減など競争力強化策に注力するよう要請した。

欧州自動車工業会(ACEA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも、27.5%に引き上げられた自動車・同部品に対する関税率が15%に下がることが確実となったと安堵(あんど)しつつ、欧州委に対し、引き下げ要件となっている米国製工業製品に対する関税撤廃の早期成立と関税賦課に伴う影響緩和策を要請した(注2)。

欧州鉄鋼連盟(EUROFER)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税率が50%で維持されたことを受け、英国産の同製品への米国の追加関税撤廃の合意実現が停滞していることを例に、EUと米国は直ちに低関税の輸入割当枠の導入や世界的な過剰生産への具体的な対応に取り組むよう促した。

欧州製薬団体連合会(EFPIA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、ジェネリック医薬品・同原料は一般関税率(MFN税率)のみの適用で合意したものの、医薬品は最大15%の関税賦課の可能性があり、患者や企業に大きな影響を与え、医薬品不足や革新的な医薬品の研究開発の停滞を招くと懸念を示した。米国の関税措置によるEU製薬部門の損失は約180億ユーロと見込まれ、短期的には各国の薬価政策の下で、企業はコスト吸収を余儀なくされ、長期的には研究開発投資が減退すると指摘。欧州委と加盟国に対し、製薬業界への支援に向け戦略的対話の開催を要請した。

欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体のCOPA-COGECAは、合意は米国産品のEU市場へのアクセス改善を認める一方で、EU産品はオーストラリアやアルゼンチン(各10%)など競合国より高い関税率(15%)に直面することとなり、互恵的ではないと批判した。また、欧州委に対し、EUの生産者にも影響するデューディリジェンス分野などの規制簡素化に関し、早期に内容を明示するよう要請した。

EUの主力対米輸出品目のうち(2025年4月11日記事参照)、COPA-COGECAが「最低限の要望」としていたワインや蒸留酒への関税適用除外は実現しなかった。欧州ワイン産業協議会(CEEV)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます蒸留酒業界団体スピリッツヨーロッパ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは失望感をあわらにし、EUおよび米国に対し、関税率引き下げに向けた交渉の継続を要請した。

(注1)各団体の声明は全て8月21日付。

(注2)米国は、1962年通商拡大法232条に基づく25%の追加関税の対象となるEU原産の自動車・同部品に対して、EUが全ての米国製工業製品に対する関税撤廃や削減を成立させる法案を正式に提出した場合、法案を提出した月の1日から15%の関税率を適用する(2025年8月22日記事参照)。

(滝澤祥子)

(EU、米国)

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