輸出管理規則上のライセンス発行件数の報告義務付ける法律成立
(米国)
ニューヨーク発
2025年08月21日
米国のドナルド・トランプ大統領は8月19日、「輸出管理の透明性向上による米国の優位性維持法」に署名し、同法は成立した。
米国では2018年に成立した輸出管理改革法(ECRA)を根拠法に、輸出管理規則(EAR)を運用している(注1)。EARの下では、人工知能(AI)技術など軍民両用の民生品、いわゆるデュアルユース品目を輸出、再輸出、みなし輸出などする際に、事前の輸出許可(ライセンス)の取得などを義務付けている。
今回成立した法律はECRAに新しい条項を追加し、商務省産業安全保障局(BIS)がEARの対象となる物品の輸出、再輸出、国内移転などに関するライセンスの発行状況や執行措置などについて、議会(注2)に毎年報告することを義務付けるもの。具体的には、(1)EAR上の国別グループD:5(注3)に所在する、または当該国で事業を行う事業体、(2)エンティティー・リスト(EL)または軍事エンドユーザ―・リスト(MEU)のいずれかに掲載されている事業体(注4)に対するライセンス発行状況などが対象となる。また、報告書には、申請者の名称や輸出先、ライセンス申請または承認の決定内容、輸出管理を順守するための執行措置などが含まれる。ただし、統計処理されていない機密情報は公開されない。なお、BISによるライセンス発行件数などに関する国別統計は、2022年時点が最新で、その後、更新されていない。
政治専門紙「ポリティコ」(8月19日)は同法について、BISが中国の華為技術(ファーウェイ)や中芯国際集成電路製造(SMIC)などに米国の機密技術の輸出許可を与える決定に関し、「議会に基本的な透明性の確保を保証するもの」とした。トランプ政権は、エヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の特定の人工知能(AI)半導体製品へのライセンス発行に当たり、当該製品の販売収益の15%を徴収することで各社と合意したが、議会からは反発する声も上がっている(2025年8月18日記事参照)。同紙は、これらライセンス発行の詳細が報告義務によって明らかにされる可能性があると伝えている。
同紙はまた、連邦下院のブライアン・マスト外交委員長(共和党、フロリダ州)が5月に「輸出管理のブラックリストに掲載された最悪の事業体に対して、何件のライセンスが承認されているか、議会が把握することは不可欠だ」と述べたことを紹介している。下院外交委員会は2021年10月に、ファーウェイとSMIC向けの輸出許可申請の承認状況に関する報告書を公表している。報告書は、同委員会がBISに対して要請したもので、2020年11月から2021年4月までの約5カ月間に、ファーウェイ向けは69.3%、SMICは91.3%が承認されたと明らかにしている。報告書の発表に際し、当時の外交委員長は「より透明性が高く厳格な執行を伴う輸出管理が必要」と批判していた(2021年10月26日記事参照)。なお、ファーウェイは2019年5月から(2019年5月16日記事参照)、SMICは2020年12月から(2020年12月23日記事参照)、ELに掲載されている。
(注1)ECRA以前は、輸出管理法(EAA)が根拠法となっていたが、EAAは時限立法だった。EAA失効後は、国際緊急経済権限法(IEEPA)を更新してEARを運用していた。ECRAの詳細は、ジェトロの調査レポート「続・厳格化する米国の輸出管理法令 留意点と対策」を参照。
(注2)報告先となる議会の委員会は、下院外交委員会と上院銀行・住宅・都市問題委員会。
(注3)国務省が武器輸出禁止措置の対象に指定した国。中国などが含まれる。
(注4)ELは、米国政府が「米国の国家安全保障または外交政策上の利益に反する行為に携わっている、またはその恐れがある」と判断した団体や個人を掲載したリスト。MEUは、米国製品を軍事転用する恐れがある外国事業体を特定したリスト(2020年12月25日記事参照)。リストに掲載された事業体に輸出などを行う場合、事前のライセンス取得が必要となる。
(赤平大寿)
(米国)
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