EV化に打撃も、米環境保護庁による排ガス規制根拠撤回の影響

(米国)

ニューヨーク発

2025年07月30日

米国環境保護庁(EPA)は7月29日、温室効果ガス(GHG)が公衆衛生に危険を及ぼすとした2009年の「危険因子判定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の撤回を提案した(2025年7月30日記事参照)。撤回が実現すれば、バイデン政権下で導入された電気自動車(EV)推進の前提となるGHG排出基準などが法的効力を失う可能性がある(2024年3月26日記事参照)。

2027年製モデル(MY)以降に適用されるGHG排出基準では、2032年時点で新車販売の約35~56%をバッテリー式電気自動車(BEV)とする目標が設定されているが、判定が撤回されれば、その達成は大きく揺らぐ可能性がある。

こうした動きに対し、GHG規制を主導してきたカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は「米国民には、連邦政府から気候変動による危機に関する真実を聞く権利がある。研究の隠蔽(いんぺい)や、科学者の解雇では、事実は変えられない。GHGによる汚染は気候変動を引き起こし、われわれの健康と福祉を脅かしている、壊滅的な洪水、猛暑、山火事など、米国民は気候変動の深刻な影響を目のあたりにしている。トランプ政権による科学と法律の軽率な放棄に惑わされることはない」と強く反発した。なお、カリフォルニア州が定める2035年のガソリン車販売禁止措置を含むアドバンスド・クリーン・カーII規制は、2025年6月に連邦議会で成立した法案によりすでに無効化されている(2025年6月17日記事参照)。

自動車業界は慎重な姿勢を見せている。主要メーカーが所属する自動車イノベーション協会(AAI)のジョン・ボゼーラ会長兼最高経営責任者(CEO)は、「バイデン前政権下で最終決定された排出ガス規制は達成不可能であり、市場の実態を踏まえた見直しが必要であることは明白だ」とした上で、「(今回の撤廃が)今後の米国における排出規制にどう影響するかを見極めるべく、内容を精査している」と述べた(NPR 7月29日)。

これまでGHG排出基準値の強化により、自動車からの二酸化炭素(CO2)排出量は着実に削減されてきた(添付資料図参照)。各自動車メーカーは、電動化に加え、ガソリン車においても排熱回収や空気抵抗低減などの技術を活用し基準達成を目指してきた。規制枠組みが揺らげば、自動車業界にとって新たな不確実性要因となる恐れがあり、本判定の行方が注目される。

(大原典子)

(米国)

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