欧州委、クリーン技術への幅広い財政支援を可能にする新たな国家補助枠組みを採択
(EU)
ブリュッセル発
2025年06月30日
欧州委員会は6月25日、EU域内のクリーン産業支援と産業界の脱炭素化に向け、加盟国による財政支援を容易にする新たな国家補助の緩和策として、クリーン産業ディール国家補助枠組み(CISAF)を採択した(プレスリリース)。CISAFは競争力強化と脱炭素化の両立を目指し、「技術中立」の下で、再生可能エネルギー(再エネ)だけでなく、脱炭素化に資する技術を広く支援する「クリーン産業ディール」(2025年3月4日記事参照)の一環だ。2025年末までの暫定的な緩和策の「暫定危機・移行枠組み」(2023年3月15日記事参照)の後継として、2030年末まで適用される。CISAFの主な変更点は次のとおり。
〇クリーンエネルギーの生産加速に向けた支援:加盟国による迅速な支援実施に向け手続きを簡素化するとともに、支援対象を従来の再エネだけでなく低炭素エネルギーに拡大。グリーン水素(2023年6月30日記事参照)などの再エネの生産を優遇するものの、化石燃料由来の水素に比べ温室効果ガス排出量を7割以上削減した低炭素水素の生産についても支援を可能にする。
〇エネルギー集約型産業に対する電力料金の一時的な軽減:クリーンエネルギーへの移行が完了するまでは、域内の電力価格は域外と比べて高い水準を維持することが予想されることから、鉄鋼などエネルギー集約型産業の製造拠点が域外に移転するリスクが指摘されている。そこで、加盟国が対象産業に対し、電力源にかかわらず、年間消費量の最大50%につき、年間平均卸価格の最大50%分を引き下げることを認める。ただし、引き下げ後の価格はメガワット時(MWh)当たり50ユーロを下回ってはならない。また、加盟国は受益企業に対し、引き下げ分の最低50%を脱炭素化投資に回すことを義務付けなければならない。
〇域内のクリーン技術の製造拡大に向けた支援:支援対象をネットゼロ産業法(2024年2月14日記事参照)の全対象技術に拡大する。これにより、加盟国は原子力関連の製造拠点への支援が可能になる。また、義務ではないものの、加盟国に対し、支援実施に当たって強靭(きょうじん)性要件(2025年5月29日記事参照)を課すことや、競争入札を実施する場合には域内製品優遇基準を設定することを強く推奨する。良質な雇用の創出など社会性要件や環境要件を課すことも同様に推奨する。
(吉沼啓介)
(EU)
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