ESCWA、米関税がアラブ地域6カ国に重大な影響と指摘
(中東、米国、バーレーン、エジプト、ヨルダン、レバノン、モロッコ、チュニジア、アラブ首長国連邦、湾岸協力会議(GCC))
調査部中東アフリカ課
2025年05月01日
国連の西アジア経済社会委員会(ESCWA)は4月19日、「米国の関税によるアラブ地域(注1)への影響」の報告書で、米国が4月に発表した一連の関税措置はアラブ諸国経済に大きな影響を与え、現在輸出額220億ドルの非石油製品に影響が及ぶとした。ESCWAは、この危機を乗り切るため、アラブ諸国の地域統合の加速と、グローバルバリューチェーンの再構築のための物流インフラ、規制改革のための新たな投資の必要性を強調した。
米国の原油輸入量減少に伴い、アラブ諸国の対米輸出総額は2013年の910億ドルから2024年には480億ドルに減少した。一方で、繊維や化学製品、アルミニウム、肥料、電子機器などの分野を中心に、非石油製品の対米輸出総額は同期間に140億ドルから220億ドルに増加し、総輸出額のシェアは15.2%から44.8%と約3倍に増加した。現在、エネルギー、銅、医薬品、半導体、木材などは関税が免除されている(2025年4月3日記事参照)ものの、繊維、化学製品、アルミニウム、肥料、電子機器などの非石油製品には高い関税率が発表されているため、アラブ諸国への影響は深刻だとESCWAは指摘した。
ESCWAによると、影響の大きさは国によって異なり、米国への非石油部門の輸出割合が高い国ほど直接的な影響が大きいとしている。特にバーレーン、エジプト、ヨルダン、レバノン、モロッコ、チュニジアの6カ国は総輸出の5%以上が影響を受けるとし、その中でも輸出品の約25%が米国向けに輸出されているヨルダンが最も影響を受けると指摘した(2025年4月9日記事参照)。また、アラブ首長国連邦(UAE)の再輸出も、米国向けが約100億ドルの規模で、影響を受ける可能性があるとした。さらに、アラブ諸国の主な輸出先の中国やEUでの需要低迷による間接的な影響も示唆している(注2)。ESCWAによる影響度合いの分類は次のとおり。
- 重大な影響を受ける国:ヨルダン、レバノン、エジプト、バーレーン、チュニジア、モロッコ
- 小さな影響を受ける国:オマーン、UAE、サウジアラビア、アルジェリア、カタール
- 重大な影響を受けない国・地域:クウェート、リビア、イラク、コモロ、ジブチ、モーリタニア、パレスチナ、ソマリア、スーダン、シリア、イエメン
ESCWAは、中国やインド、EUに課された関税に比べて、アラブ諸国への関税が低かったことから、アラブ諸国が相対的に優位になる可能性はあったものの、中国を除くほとんど国で関税が一時停止された(2025年4月11日記事参照)ことで、その可能性も低くなったとしている。
(注1)アルジェリア、バーレーン、コモロ、ジブチ、エジプト、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、モーリタニア、モロッコ、オマーン、パレスチナ、カタール、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、シリア、チュニジア、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメン。
(注2)例えば、湾岸協力会議(GCC)諸国の石油と化学製品の22%、アラブ諸国全体の輸出の15%が中国に輸出され、チュニジアの輸出の72%、モロッコの輸出の68%、アラブ諸国全体の輸出の17%がEUに輸出されている。
(加藤皓人)
(中東、米国、バーレーン、エジプト、ヨルダン、レバノン、モロッコ、チュニジア、アラブ首長国連邦、湾岸協力会議(GCC))
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