トランプ米政権、USMCAの原産地規則を満たす自動車の米国原産割合の申告手続きを官報で公示、追加関税の影響を緩和

米国商務省国際貿易局（ITA）は5月20日、米国・カナダ・メキシコ協定（USMCA）の原産地規則を満たす自動車輸入において、米国原産割合を申告する手続きを官報で公示した。トランプ政権は4月3日から、1962年通商拡大法232条に基づき、自動車に対して25％の追加関税を課しているが、USMCAの原産地規則を満たす自動車に対しては、車両の輸入申告価格全体ではなく、非米国原産分の価値に対してのみ追加関税を課すと定めていた（2025年4月3日記事参照）。だが、その具体的な手続きが定められないまま、追加関税が賦課されていた。

官報に基づく、具体的な申請概要は次のとおり。

• 合衆国法典第19編第1401a条に基づき申告された、モデルラインごとの総関税評価額。同一モデルライン内で関税評価額が異なる場合は、USMCA第4章付属書4-B「自動車製品に関する製品別原産地規則に関する規定」第5条に準拠した平均値を採用できる。
• 米国原産分の価値。米国で完全に取得、製造、または実質的に変更された部品を指す。同一モデルライン内で異なる場合は、USMCA第4章付属書4-B第5条に基づく平均値を採用できる。
• 自動車の非米国原産分の価値。総価値から米国原産分の価値を差し引くことで求める。同一モデルライン内で異なる場合は、USMCA第4章付属書4-B第5条に基づく平均値を採用できる。
• 車両の製造場所および最終組み立て国。
• USMCAの原産地証明書。これには、鉄鋼・アルミニウムの調達割合や賃金条項（注1）、代替経過措置（Alternative Staging Regime：ASR、注2）の対象の有無、といった内容も含む。
• 全てのモデルラインに関する輸入者名、輸入者登録番号、製造者名、製造施設、原産国、年式、型式、モデルに関する情報。

輸入者は、モデルラインごとに最高財務責任者（CFO）、法務担当役員または同等の役職にある役員が認証した、上述の内容を踏まえた必要書類を提出する必要がある。書類は、5月20日からメールで提出可能となっている（宛先：Autos232USMCAContent@trade.gov）。

書類が商務省に提出された後、審査を経て、モデルラインごとの非米国原産割合が、輸入者および税関・国境警備局（CBP）に通知される。一度の通知は6カ月間有効で、それ以降継続を希望する場合は、有効期限の30日前までに再度申請する必要がある。調達や製造の変更により米国原産割合が変わる場合は、あらためて必要書類を提出することにより、新たな判定を受けられる。追加関税が賦課された4月3日以降に輸入されたモデルラインにも遡及（そきゅう）適用するかどうかは、商務長官の裁量により決定する。完成車メーカーは、米国原産割合を申告するプロセスがないまま追加関税が課されていたため、いったん、輸入申告価格全体に25％の追加関税が課された状態で輸入していたとみられる。

なお、トランプ政権は自動車部品に対しても、同様に追加関税を課している。自動車部品も同様に、USMCAの原産地規則を満たしている場合は非米国原産分に対してのみ追加関税が課されるが、そのプロセスが確立されたと商務長官が発表するまで追加関税の対象外となっている（2025年5月2日記事参照）。そのほか、自動車部品に対しては、関税支払いの相殺制度も発表されている（2025年4月30日記事参照、注3）。自動車業界に詳しい関係者からは、自動車部品関税の相殺制度が続く2年程度は、自動車部品の非米国原産分を申告するプロセスは設けられないのではないか、との見方も示されている。

（注1）USMCAの完成車の原産地規則は、域内原産割合（RVC）が純費用方式で75％以上、重要な自動車部品（スーパーコア）が全てUSMCA原産品であることのほか、完成車メーカー（OEM）が購入する鉄とアルミニウムの7割がUSMCA原産材料であること、直接工の賃金（時給）が16ドル以上の地域の付加価値が40％（乗用車・SUV）、もしくは45％（ピックアップ）以上であることも求められる。詳しくは、2019年5月8日付地域・分析レポート参照。

（注2）USMCAには、発効から5年間、自動車生産者が輸入国からの承認を得ることで、一部の車種に対して域内原産割合が62.5％に緩和されるといった経過措置（ASR）がある。

（注3）自動車部品関税の相殺制度は、5月下旬をめどに、具体的な手続きが発表される予定。

（赤平大寿）