IMF、MENA地域の2025年経済予測を下方修正、今後のリスクを指摘

(中東、湾岸協力会議(GCC)、中東・北アフリカ(MENA)、エジプト、ヨルダン)

調査部中東アフリカ課

2025年05月16日

IMFは5月1日に発表した「地域経済見通し(中東・中央アジア)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」で、2025年の中東・北アフリカ(MENA)地域(注1)の実質GDP成長率の予測を2.6%とし、2024年10月の予測4.0%から下方修正した(2024年11月14日記事参照)。この数値は2025年の世界の経済成長率見通しの2.8%を下回っている(2025年4月24日記事参照)。なお、MENA地域の2026年の予測は3.4%となっている。さらに、2025年4月の米国の関税措置の影響については、MENA地域諸国は米国との取引リスクが少なく、エネルギー製品への関税が免除されていることから直接的な影響は軽微であるものの、今後間接的な影響が顕著になると予測した(添付資料表参照)。

IMFは原油生産の回復、紛争の影響の安定化、構造改革の進展を前提に、2025年と2026年のMENA地域は緩やかな成長を予測する一方、下方修正の理由に、世界経済の成長鈍化や原油価格の下落、長引く紛争などを挙げた。また、MENA地域の今後の見通しについては、大きな不確実性が存在するとし、次の4つのリスクを挙げた。

  • 貿易摩擦:緊張が高まると、石油生産の遅れなどが生じる。
  • 紛争:紛争の悪化は、貿易、観光、サプライチェーンを混乱させる。
  • 気候変動によるショック:MENA地域は、干ばつや洪水などの極端な気象現象に対して依然として脆弱(ぜいじゃく)。
  • 政府開発援助(ODA)の減少:低所得国や紛争の影響下にある国などに深刻な経済的・人道的影響をおよぼす可能性がある(2025年5月2日記事参照)。

IMFはこのような不確実性に対し、MENA地域諸国は新たな環境への適応と経済の変革が必要であると指摘している。

国・地域によっても経済状況の予測は異なる。IMFが分類するMENA地域・パキスタン・アフガニスタンのうちの石油輸出国(注2)の中でも、湾岸協力会議(GCC)諸国は非石油分野の拡大と石油生産の段階的な再開で成長が加速すると予測する一方、GCC以外の国では制裁や原油価格の下落、生産能力の制約、財政縮小により、成長率が低下すると予測している。また、石油輸入国・地域(注3)のいくつかの国・地域では、紛争の影響をほとんど受けず、国内需要増加などにより成長率が上昇する国もあるという。なお、紛争の影響を受けていたエジプトやヨルダンも紛争長期化の影響は残るものの、2025年は緩やかな回復を予測している。

なお、世界銀行も2025年4月にMENA地域の経済予測を報告し、IMFと同様に緩やかな成長を予測している(2025年4月28日記事参照)。

(注1)アルジェリア、バーレーン、ジブチ、エジプト、イラン、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、モーリタニア、モロッコ、オマーン、カタール、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、シリア、チュニジア、アラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダン川西岸地区とガザ地区、イエメン

(注2)バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、UAE、アルジェリア、イラン、イラク、リビア

(注3)エジプト、ヨルダン、レバノン、モロッコ、パキスタン、チュニジア、ヨルダン川西岸地区とガザ地区、アフガニスタン、ジブチ、モーリタニア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメン。

(加藤皓人)

(中東、湾岸協力会議(GCC)、中東・北アフリカ(MENA)、エジプト、ヨルダン)

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