世界経済は減速、米追加関税で不確実性の高まりは過去最高水準

(世界)

調査部国際経済課

2025年04月24日

IMFは4月22日、最新の「世界経済見通し」(英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(添付資料表参照)。2025年の世界経済の成長率(実質GDP伸び率)は2.8%と、前回1月時点の予測(3.3%)から0.5ポイント下方修正された。本予測は「参照予測」として、同年2月1日から4月4日までに米国が発表した追加関税(注)と他国による対抗措置を含む。米国が貿易パートナーに対して段階的に導入を開始した輸入関税が世界的な貿易・投資・供給網の混乱を招き、各国経済に負の影響を与えると指摘した。また、2026年の成長率は3%(前回比0.3ポイントの下方修正)とした。

今回の見通しに際し、IMFは「参照予測」のほか、2つのシナリオを提示した。1つは4月2日以前の政策措置を前提としたシナリオ(2024年10月以降の経済政策を反映)で、2025年の成長率は3.2%と、前回予測から0.2ポイントの小幅な下方修正となる。他方、4月9日以降の米国による中国への追加関税と一部の国への90日間の停止措置、中国による報復関税が恒久的になると仮定されたシナリオでは、2025年の成長率は2.8%、2026年は2.9%となり、参照予測とほぼ同水準とした。IMFは、関税政策の展開次第で成長見通しが大きく変動しうるとし、従来の単一予測を補完するかたちで複数の代替シナリオを示した。

参照予測に基づき主要国・地域別にみると、米国は2024年の2.8%から、2025年は1.8%へと大きく減速。前回から0.9ポイントの下方修正となった。追加関税の影響による物価上昇や消費の減退が背景にある。ユーロ圏は2025年に0.8%(前回比0.2ポイントの下方修正)と低成長が続き、製造業の停滞や域内需要の弱さが響く。中国は不動産セクターの低迷に加え、米国による関税の影響で輸出環境も悪化し、成長率は4.0%(前回比0.6ポイントの下方修正)にとどまる。日本は0.6%(前回比0.5ポイントの下方修正)と、関税による不確実性の高まりが個人消費に水を差す結果となった。インドは引き続き内需主導で、6.2%(前回比0.3ポイントの下方修正)の高成長を維持する見通し。

IMFはディスインフレ(物価上昇率の低下)の進展についても言及し、2025年の世界のインフレ率は4.3%、2026年には3.6%まで落ち着くと予測されている。しかし、関税政策の不透明感により多くの不確実性を内包する。

IMFは今回の報告で、リスクが総じて下方に傾いているとし、激化する貿易戦争や予見不可能な政策による不確実性の高まり、金融市場の不安定化、社会不満の増加などを下振れ要因として挙げた。他方で、上振れの可能性も指摘する。各国で関税措置の見直しや新たな貿易合意の形成、構造改革の進展や人工知能(AI)を含む技術革新が進めば、投資や貿易の回復を通じて成長が押し上げられるとした。また、ウクライナ停戦が実現した場合のエネルギー価格の低下や消費者信頼感の回復が欧州域内での成長を高める可能性についても言及された。

IMFのピエール・オリビエ・グランシャ主任エコノミストは「世界的な景気後退は予測していないが、2025年に起こるリスクは前年10月時点の17%から30%へと高まっている 」と述べた。また、今後、政策担当者に求めることとして、「貿易政策の安定を取り戻すことが最優先事項」とした。

(注)4月2日に米国が発表した国別相互関税率を適用。中国、メキシコ、カナダについては同時点までに発表された国別関税率を適用。鉄鋼・アルミニウム製品、自動車・自動車部品に対しては品目別の25%の追加関税を適用。

(峯裕一朗)

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