半導体輸出管理強化に伴うサプライチェーン変化は課題があるも「戻れない道」、米シンクタンク

(米国、中国、日本)

ニューヨーク発

2024年02月26日

米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は2月21日、規制が強化されている米国による中国向け半導体関連製品の輸出管理の効果を検証する報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公開した。

米国は、国家安全保障や外交的利益の観点から、先端半導体および製造装置や関連技術の中国向けの輸出管理などを近年、継続的に強化している。トランプ前政権下の2020年8月に、半導体などの華為技術(ファーウェイ)向け輸出管理を強化した(2020年8月18日記事参照)。続くバイデン政権下の2022年10月には、半導体製造装置などの中国向け輸出管理を強化し(2022年10月11日記事参照)、2023年10月には、輸出管理の対象とする半導体製造装置の種類を拡大するなど、これを一層強化した(2023年10月18日記事参照)。また、2023年8月には、半導体などに係る対中投資規制を発表(2023年8月14日記事参照)するなど措置を講じてきた。

報告書では、これらの米国の輸出管理が先端半導体製造に不可欠な製造装置へのアクセスを制限し、中国の半導体エコシステムに大きな影響を与えていると結論付けた。具体的には、米国および同盟国の輸出管理強化によって、中国の2~3ナノメートル・ノードで先端半導体を生産する能力を封じたとしたほか、「中国国内でこの種の複雑な装置の生産能力を得ることは当分の間は不可能だ」との業界関係者のコメントも記載した。

一方で、輸出管理が長期的に米国企業に及ぼす悪影響や輸出管理の「穴」も指摘した。米国や同盟国からの半導体関連製品の調達が困難になることから、中国政府が先端半導体の研究開発や、さまざまな分野に応用され得る非先端半導体の生産に多額の補助金を与えるなどして支援している状況を説明した。これが、中国市場における米国企業の収益を圧迫し、長期的には米国企業の競争力を弱体化させることにつながる可能性があると指摘した。

また、日本とオランダによる半導体製造装置の輸出管理強化を最も重要な動きと評価しつつ、日本の外為法に基づく輸出管理の対象が23品目にとどまるほか、中国を懸念国として明確に指定していないなどとして、米国との規制範囲の差異を課題視した。日本、韓国、欧州の半導体関連企業は、中国との戦略的競争という米国の考えを必ずしも共有していないことをその理由に挙げた。これに加えて、中国企業がパートナー企業やペーパーカンパニーを通じて米国および同盟国の輸出管理を迂回しているほか、輸出管理が施行されるまでの期間を利用して在庫を積み増しているとの抜け穴を指摘した。こうした要因から、先端半導体に「小さい庭に高いフェンス」を設けるとの米国の輸出管理体制の実態は穴だらけだと指摘した。

ただし、報告書ではこれら課題を指摘しつつも、新型コロナウイルス禍で露呈した、中国を軸とした半導体サプライチェーンは脆弱(ぜいじゃく)で憂慮すべきものだとして、米国が従来の半導体サプライチェーンに「戻る道はない」とした。さらに、米国側も中国側も、従来のサプライチェーンに戻ることを望むとは考えにくく、許されるとも思えないとして、サプライチェーンの変化は不可逆的な動きであることを強調した。

半導体を巡るグローバルサプライチェーンの変化についてはジェトロの特集ページも参照。

(葛西泰介)

(米国、中国、日本)

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