米ウイグル強制労働防止法でVWグループの自動車輸入が差し止め、メディア報道

(米国、中国、ドイツ)

ニューヨーク発

2024年02月16日

ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)グループのポルシェ、ベントレー、アウディの自動車数千台が、米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA、注1)に基づき、米国の港湾で輸入を差し止められた。英国のフィナンシャル・タイムズ(FT)紙が伝えた(2月14日)。

2022年6月に施行したUFLPAは、中国の新彊ウイグル自治区やUFLPA事業者リストで指定する企業・団体がサプライチェーンに関与する製品を、ウイグル族などの強制労働に依拠して生産された製品であるとの「推定」の下、人権保護の観点から米国への輸入を原則禁止する。FT紙によると、今回VWグループの間接サプライヤーが調達した中国製の電子部品が問題視された(注2)。米国への輸入が差し止められた台数は、ポルシェが約1,000台、ベントレーが数百台、アウディが数千台に上るという。

UFLPAに基づき輸入が差し止められた場合には、米国税関・国境警備局(CBP)からの差し止め通知から原則30日以内に、(1)サプライチェーンに新彊ウイグル自治区などが関与するものの強制労働に依拠して生産していないとの反証〔推定例外(exception to the presumption)、注3〕、(2)サプライチェーンにそもそも新彊ウイグル自治区などが関与しないとの反証〔適法性審査(applicability reviews)〕、(3)輸出元国に再輸出(シップバック)などを行うことが可能だ。ただし、FT紙は関係者の話として、VWは既に電子部品の調達先をCBPに報告し、違反だとされた部品を交換する対応を行っているとしている。

また、今回のFT紙の報道に先立って、国際的な人権擁護団体のヒューマン・ライツ・ウォッチが2月1日に公表したレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、VWグループは中国において合弁会社を設立して運営を行っており、中国合弁会社に「決定的な影響力」を持たないことから、人権デューディリジェンスを行う際、間接的な取引先までにさかのぼってのサプライチェーン・マッピングが困難と指摘されていた。

CBPが公開するUFLPA執行データ(2月13日更新)によると、2022年6月の同法施行以降、差し止めなどの対象となった輸入貨物は7,058件(26億ドル相当)だった。そのうち、2,972件(42%)は輸入が否認された一方、2,974件(42%)は輸入が許可され(注4)、残りは保留の状態となっている。

執行件数を産業別にみると、エレクトロニクスが3,381件(21億9,000万ドル)と最多。次いで、アパレル・履物・織物(1,275件、5,100万ドル)、工業・製造材料(1,091件、6,800万ドル)などが続く。自動車・航空宇宙は61件(400万ドル)にとどまるが、米国連邦議会では自動車および自動車部品に対するUFLPAなどの執行強化を求める動きがあるほか(2022年12月26日2023年3月30日記事参照)、執行対象分野はこれら以外にも広がりをみせている(2024年1月11日付地域・分析レポート参照)。

(注1)UFLPAについては、ジェトロ特集ページ「ウイグル強制労働防止法」も参照。同ページでは、UFLPAに関する最新動向を随時紹介している。

(注2)UFLPAは、新彊ウイグル自治区で生産された製品だけでなく、同自治区産の原材料を用いて中国国外で生産された製品にも適用される。そのため、中国以外の国・地域からの輸入についても執行が及ぶ(2022年8月5日付地域・分析レポート参照)。

(注3)CBPが推定例外の反証を受けて米国への輸入を許可した場合には、その決定の30日以内に当該物品と証拠に関する報告書を連邦議会に提出および一般に公開する。一方で、ジェトロでは2024年2月15日現在までにそうした事例は把握していない。

(注4)注3記載のとおり、推定例外が認められた事例は明らかになっていないことから、差し止め後に輸入が許可された事例は、いずれも適法性審査の結果と推測される。UFLPAの適法性審査については、ジェトロ調査レポート「適法性審査の追加ガイダンス」も参照。

(葛西泰介)

(米国、中国、ドイツ)

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