サプライチェーンと人権、在欧日系企業の約9割が重要な経営課題と認識

(欧州、EU)

調査部欧州課

2023年12月27日

ジェトロが12月26日に公表した、「2023年度 海外進出日系企業実態調査(欧州編)」(2023年12月26日記事参照)において、「サプライチェーンにおける人権問題を重要な経営課題として認識しているか」と尋ねたところ、回答した在欧日系企業(805社)の89.4%が「認識している」とした。前年調査の約7割から20ポイント以上の伸び。業種別でみると、製造業を中心に「認識している」と回答した企業が多く、特に繊維、非鉄金属、輸送用機器(自動車/二輪車)など8業種で100%が「認識している」と回答した。

欧州では、サプライチェーン上の人権・環境分野に関するデューディリジェンス(DD)の実施を企業に義務付ける関連法令の施行や整備が進んでいることから、在欧日系企業では、人権問題を重要な経営課題とする認識が浸透しつつあるとみられる。

人権DDの実施範囲や取り組みに課題

一方で、「人権DDを実施している」との回答割合は、全体で38.0%と前年調査の35.4%に比べて微増にとどまった。国別では、人権DD関連法(注)が施行されている英国(2015年現代奴隷法)やドイツ(サプライチェーンDD法)などで実施割合がそれぞれ47.8%、37.2%となり、ともに前年から伸びた。自由記述での回答によると、人権DDを実施している主な理由としては、「本社やグループ全体の方針・指示」「取引先や顧客からの要請・監査」「欧州の法令順守」などが上げられた。反対に、「実施していない主な理由」としては、「本社の指示待ち」「サプライチェーンが限定的で体制が整っていない」などの声があった。

また、人権DDを実施している企業に対して、「人権DDをどの範囲まで実施できているか」を聞いたところ、「自社・グループ会社」内が89.1%と最多で、次いで「直接的な取引先」までが52.9%との回答割合だった。間接的な取引先を含めて、サプライチェーン上、広範囲に人権DDを実施していると回答した企業は、製造業では約3割で、まだ限定されているといえる。人権DDの取り組み上の課題として、自由記述による企業からのコメントによると、「サプライチェーンの範囲が広い」「取引先への要請や支援方法」「対応するための人員、ノウハウ不足」などの点が上げられた。

さらに、現在、影響を受けているまたは今後影響を受ける可能性がある人権・環境DD関連法規制について聞いたところ、ドイツで2023年1月に施行されたサプライチェーンDD法を挙げる企業が35.5%と最多となった。同法に関して、「顧客や取引先からのDD要請や取り組み状況に関する問い合わせが増加した」などのコメントがあった。続いて、EU理事会と欧州議会が12月14日に政治合意に達したEUの企業持続可能性DD指令案(2023年12月19日記事参照)が28.5%と、EU全体での人権DDの法制化の動きについても、在欧日系企業が注目している様子がうかがえた。欧州で関連法規制の整備が先行する中、今後、在欧日系企業における人権DDへの取り組みも徐々に進むとみられる。

(注)欧州を含む各国のサプライチェーンと人権に関する動向については、ジェトロの「特集 サプライチェーンと人権」を参照のこと。

(土屋朋美)

(欧州、EU)

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