EU、人権・環境デューディリジェンスの義務化指令案で政治合意、域外企業も対象に

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月19日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は12月14日、企業活動による人権や環境への悪影響を予防・是正する義務を特定の企業に課す、企業持続可能性デューディリジェンス指令案に関して、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同指令案は、欧州委員会が2022年2月に提案したもの(2022年2月28日記事参照)。今後、両機関による正式な採択を経て、施行される見込み。加盟国は施行後2年以内に国内法への置き換えを実施し、適用されることになる。合意された法文案は現時点で公開されておらず、詳細については正式な採択を待つ必要がある。

同指令案に基づくデューディリジェンス(DD)義務の対象となるのは、EU域内で設立された企業のうち、(a)全世界での年間純売上高が1億5,000万ユーロ超かつ平均従業員数が500人超の企業と、(b)全世界での年間純売上高が4,000万ユーロ超で、そのうち人権・環境の観点からハイリスクと指定された特定分野(注)の売上高が2,000万ユーロ以上で、かつ平均従業員数が250人超の企業だ。

EU域外で設立された企業の場合、基準は全世界の年間純売上高でなくEU域内での年間純売上高となるものの、EU域内企業と同一の閾値に基づき対象となる。EU域内の年間純売上高が1億5,000万ユーロ超の域外企業については、施行3年後から適用される。

DD義務の射程には、自社や子会社の企業活動に加えて、バリューチェーンにおける上流企業の企業活動も含まれる。一方で、焦点の1つとなっていた下流企業の企業活動については、流通やリサイクルなどの一部に限定される。DDの内容に関しては、おおむね欧州委案に沿ったもので合意したとみられる。

また、(a)の閾値を満たす対象企業は、DDに加えて、自社のビジネスモデルを気候変動に関するパリ協定における1.5度目標に整合させるための移行計画を策定し、実施することも求められる。

もう1つの焦点となっていた金融機関の扱いについては、現地報道によると、両機関の交渉の結果、上流の企業活動に関してはDD義務化の対象にはなるものの、中核的な業務である投資や融資に関しては当面は除外される。一方で、移行計画の策定・実施は求められる。

対象企業が同指令案の義務に違反した場合には、加盟国当局により全世界での年間純売上高の最大5%の罰金が科される。また、DD義務の違反に関しては、民事上の損害賠償責任を負うことになる。

(注)繊維・衣類・履物の製造および卸売り、農林水産、食品製造、原材料農産物の取引、鉱物資源の採掘および卸売りと関連製品の製造、建設。

(吉沼啓介)

(EU)

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