欧州委、域内のグリッド整備加速に向けた行動計画を発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月04日

欧州委員会は11月28日、EU域内の電力網(グリッド)の新設と次世代電力網(スマートグリッド)の導入を加速させるための行動計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

EUでは、欧州グリーン・ディールを推進する一環として産業、運輸、建物などの分野の電化が進められており、2030年までに電力消費は6割増加すると見込まれている。一方で、再生可能エネルギーなどの発電量の拡大に伴うグリッド増強の許認可には最長10年を要しており、再エネ移行の障壁の1つになっている。また、既存の配電網の4割は設置から40年を超える現状に加え、一般家庭などに普及が進む太陽光発電からの供給拡大や、ヒートポンプ、電気自動車(EV)の充電設備などによる需要変動など、グリッドを巡る環境の変化により柔軟に対応するには、スマートグリッドへのアップグレードが必要不可欠となっている。欧州委は、グリッドの新設やアップグレードには、2030年までに5,840億ユーロの投資が必要だと試算する。

行動計画は、再エネ指令(2023年9月20日記事参照)、ネットゼロ産業法案(2023年11月24日記事参照)、電力市場改革法案(2023年10月20日記事参照)など、グリッド整備に向けた支援枠組みの法制化が進んでいることから、グリッドの本格的な整備実施に向けて策定した政策文書。主な内容は次のとおり。

  1. グリッド整備に関連した共通利益プロジェクト(PCI、2023年11月30日記事参照)の迅速な実施
  2. 再エネ電力のシェア拡大や電化、グリーン水素生産による電力需要の拡大に対応するためのグリッド整備長期計画の改善:欧州委はグリッド整備の10年計画で、洋上・陸上インフラだけでなく、水素インフラも考慮する。
  3. 先進的なグリッド整備に向けた制度的インセンティブの導入:電力市場改革法案では、グリッド整備に対する先行投資の規定が盛り込まれている。欧州委は、加盟国が先行投資を承認する際の条件に関する指針を2025年第1四半期(1~3月)までに提案する方針。洋上インフラ整備の設置加盟国と便益を受ける加盟国の間の費用分担に関する指針は、2024年6月までに発表する予定だ。
  4. グリッドのより良い利用に向けたインセンティブの導入:エネルギー規制当局間協力庁(ACER)は2025年1月までに発表予定の送配電料金報告書で、料金の設定や設定方法についてのベストプラクティスを勧告することで、加盟国の規制当局を支援する。
  5. 資金へのアクセスの改善:結束基金(CF)や欧州地域開発基金(ERDF)などの加盟国が用途を決定するEU予算の多くはグリッド整備への財政支援が可能なものの、現在、グリッド整備への割り当ては非常に限定的だ。そこで、欧州委はグリッド整備への財政支援拡大に向け、加盟国との協議を2024年第1四半期から開始する。
  6. 許認可手続きの迅速化による整備の加速:再エネ指令は許認可手続きの迅速化を規定していることから、欧州委はその実現に向け、手続きの実施主体の加盟国当局を支援する。
  7. グリッドに関連するサプライチェーンの強化:サプライチェーン全体の安定供給を確保すべく、グリッドやその設備の標準化を進める。また、製造規模の予見性を高めるために、製造事業者に今後の調達に関する情報提供を強化する。

(吉沼啓介)

(EU)

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