欧州議会、ネットゼロ産業法案の立場を採択、公共調達から中国の実質的な排除を求める

(EU、中国)

ブリュッセル発

2023年11月24日

欧州議会は11月21日、温室効果ガス(GHG)排出ネットゼロ実現に貢献する技術(ネットゼロ技術)のEU域内での生産能力拡大を支援するネットゼロ産業規則案に関して、同議会としての修正案となる「立場」を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。規則案は、EU域内のネットゼロ産業支援策「グリーン・ディール産業計画」(2023年2月3日記事参照)の一環として欧州委員会が提案(2023年3月20日記事参照)したものだ。EU理事会(閣僚理事会)はまだ交渉上の「立場」を採択していないが、採択され次第、早期の政治合意に向けて欧州議会との交渉に入るとみられる。

欧州議会案はまず、規則案の対象となるネットゼロ技術を大幅に拡大した。欧州委案は、10の技術をネットゼロ技術に指定した上で、そのうち特に優先度の高い一部の技術を戦略的ネットゼロ技術に指定する。一方で同議会案は、戦略的ネットゼロ技術の区分を削除した上で、ネットゼロ技術を16の技術に拡大する。この中には、欧州委が戦略的ネットゼロ技術に含めないとして、フランスなどが反発していた原子力も含まれる(2023年3月27日記事参照)。加盟国は原子力の扱いをめぐり対立しており(2023年7月20日記事参照)、EU理事会の対応が注目される。

また、欧州委の規則案では戦略的ネットゼロ技術について、EU域内の年間需要の40%を域内生産するとのベンチマーク(努力目標)の対象を設けていたが、同議会案ではこの対象を「EUの気候・エネルギー目標の達成に必要な技術」に修正。この技術の世界需要の25%を域内生産することも目指すとした。

このほか、ネットゼロ技術を対象にした生産拠点の許認可プロセスの迅速化について、欧州委案は年間製造能力に応じ、審査期限を12カ月以内あるいは18カ月以内に設定しているが、同議会案は9カ月以内あるいは12カ月以内に短縮する。また、戦略的ネット技術を対象にさらなる優遇を認める「戦略的ネットゼロ事業」に関して、同議会案は戦略的ネット技術の区分を削除する一方で、対象をネットゼロ技術全般に広げることで戦略的ネットゼロ事業の枠組みは維持。審査期限を欧州委案からさらに短縮する。

欧州委案の課題とされた独自財源の欠如に関しては、同議会案は、EU排出量取引制度(EU ETS、2022年12月20日記事参照)の有償割り当て分のオークション収入のうち、加盟国受け取り分の25%を規則案の目標達成支援に充てることを加盟国に求める規定を新設した。

公共調達から中国を実質的に排除、欧州委案より保護主義色を強める

同議会案は、公共調達において域内生産を優遇すべく、中国への依存度の高いネットゼロ技術(2023年11月20日記事参照)の公共調達から、中国を実質的に排除する方針を明確にした。公共調達の契約先の選定基準に関して、欧州委案は、価格のほかに、持続可能性やEUの強靭(きょうじん)性(レジリエンス)への貢献を15%から30%の割合で勘案しなければならないと規定。「同一の供給源」からのネットゼロ技術の域内供給が65%未満であれば強靭性に貢献するとする。一方、同議会案は、持続可能性および強靭性への貢献に対する勘案割合を、最低30%に引き上げる。その上で、「同一の供給源」からのネットゼロ技術の域内供給が50%未満であれば強靭性に貢献すると修正する。さらに、公共調達の入札参加希望者の事前資格審査において、WTO政府調達協定(GPA)の非締約国産のネットゼロ技術が50%を超えてはならないとの条件を追加する。日本のほか、米国や英国はGPAの締約国であるものの、中国はGPAの非締約国だ。このことから、中国産が50%を超える製品の公共調達において、中国からは入札に参加できなくなるとみられる。また、この場合には中国以外のGPA非締約国からも入札に参加できなくなる可能性があり、より保護主義的な傾向が強い案となった。

(吉沼啓介)

(EU、中国)

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