欧州議会、再エネ指令改正案を採択、欧州委が原子力推進するフランスに譲歩

(EU、フランス)

ブリュッセル発

2023年09月20日

欧州議会は912日、エネルギーミックスに占める再生可能エネルギー比率の目標を規定する再エネ指令の改正案を正式に採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。改正案は、EU全体の最終エネルギー消費ベースのエネルギーミックスに占める再エネ比率について、法的拘束力のある2030年目標の42.5%に、努力目標の2.5%分を追加することで、2030年までに現状の約2倍となる45%の達成を目指す。

改正案は、2023330日にEU理事会(閣僚理事会)と欧州議会が政治合意したもの(2023年4月3日記事参照)。ただし、EU理事会は5月、正式な採択に向けた手続きを突如中断。現地報道によると、改正案の原子力の扱いに不満を持つフランスが異議を唱えたことが背景にはあるとみられる。EU理事会は616日、欧州委員会や他のEU加盟国との協議の末、欧州委が「宣言」を付帯し、改正案に新たな前文を追加するという妥協案で合意した。欧州議会との政治合意後に修正が加えられるのは異例中の異例だ。欧州議会は今回、EU理事会との協議を再開させることなく妥協案が反映された改正案を正式に採択したことから、改正案はEU理事会でも正式に採択され、施行される見込み。

EUで成果挙げつつあるフランスの原子力推進の方針

欧州委の「宣言」は、改正案が推進する再エネに加えて、その他の「化石燃料を含まないエネルギー」が2050年までの炭素中立の実現に貢献することや、実現に向けた再エネ目標の達成は「化石燃料を含まないエネルギー」に基づく脱炭素化に向けた取り組みと連携して実施されるべきことを認めるとした。「化石燃料を含まないエネルギー」には原子力も含まれることから、原子力を推進するフランスの主張を受け入れたかたちだ。欧州委は、欧州グリーン・ディールで原子力の活用を限定的にしか認めていない。一方で、フランスは他の有志国とともに、原子力を強力に推進しており(2023年7月20日記事参照)、改正案の産業部門のグリーン水素の最低比率目標(2023年6月9日付地域・分析レポート参照)や、グリーン水素の定義(2023年2月15日記事参照)でも、原子力活用に向けた例外規定の追加に成功している。

このほか、改正案にはアンモニア製造に関する新たな前文も追加された。改正案には産業部門の水素消費量に占めるグリーン水素の最低比率目標が含まれており、水素を原料とするアンモニア製造も対象となる。アンモニアは肥料の原料になることから、グリーン水素の最低比率目標の厳格な適用は肥料の生産減少につながるとして、農業国フランスがこれに反対。交渉の結果、グリーン水素の導入にはアンモニア製造施設を改修する必要があり、これには加盟国の多大な取り組みが求められることを前文に明記。その上で、欧州委の「宣言」は、改修への最終投資決定がなされていることなどを条件に、グリーン水素の最低比率目標の適用対象から、既存のアンモニア製造施設を除外することを、事案ごとに判断できるとした。

フランスによる原子力の推進はEU政策で全方位的に行われており、フランスのこうした積極的な働きかけは今後も続きそうだ。

(吉沼啓介)

(EU、フランス)

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