EU理事会、電力市場改革法案の立場で合意、既存原発へのCfD適用を認める

(EU)

ブリュッセル発

2023年10月20日

EU理事会(閣僚理事会)は10月17日、電力市場改革法案に関するEU理事会の交渉上の立場で合意したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州委員会は2022年夏のエネルギー価格の急激な高騰を受け、電力価格を長期的に安定させるべく、電力市場改革の意向を表明(2022年8月31日記事参照)。2023年3月に電力市場改革法案を発表した(2023年3月16日記事参照)。欧州議会は9月に交渉上の立場を採択していることから、EU理事会と欧州議会は2023年末までの政治合意に向けて交渉を早期に開始するとみられる。

EUの電力市場の枠組みでは、電力価格は、ガス価格と実質的に連動する電力の短期市場の卸売価格に大きく依存している(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)。電力市場改革法案は、この価格決定メカニズム自体を変更するものではないが、安価な再生可能エネルギーの発電コストをより電力価格に反映させることができる電力購入契約(PPA)などの長期契約を推進することで、電力価格の低下と安定化を目指すものだ。

今回合意したEU理事会の立場は欧州委案におおむね沿った内容だ。EU理事会はPPAを推進すべく、加盟国が障壁や不相応な手続きなどを撤廃した上で、市場価格での国による保証、民間の保証、PPAの需要を集約する制度などを活用するとの内容で合意した。

ドイツとフランスが対立していたCfDの扱いに関して譲歩案で合意

EU理事会での議論で焦点となったのは、欧州委が求める二重の差額決済契約(Contract for Difference、CfD、注)の義務化の適用対象だ。欧州委案は再エネへの投資を後押しすべく、加盟国が再エネ施設へ新規投資する場合に二重のCfDの適用を義務付けると規定。義務化の対象となる新規投資には、新規の発電施設に対するものだけでなく、既存の発電施設の発電能力の強化や寿命延長も含むとした。他方で、欧州委案は既存の原発への新規投資に関しても二重のCfDの適用の義務化対象とした。このことから、ドイツなどの反原発を志向する加盟国が反発。原発を推進するフランスなどの加盟国との対立により、EU理事会での交渉が停滞していた(2023年7月20日記事参照)。

現地報道によると、ドイツが反対する背景には、エネルギー価格が高止まりする中でのドイツ産業界の相対的な競争力低下への危機感がある。多数の原発を有するフランスが既存原発への新規投資に二重のCfDを適用した場合、フランスは電力価格が上限価格を上回った際に多額の差額を得ることができ、この差額を消費者である一般企業に還元することもできる。ドイツは、上限価格の設定水準によってはこうした一般企業への還元は実質的に国家補助にあたると主張。本来規制を受けるべき国家補助が規制を受けずに済めば、フランスの競争力を不当に優位にするとして、既存の原発への二重のCfDの適用に反発していた。

EU理事会は最終的に、加盟国による再エネや原発への新規投資に二重のCfDを適用することを原則義務化することで合意した。一方で、原発を含む既存の発電施設の寿命延長への新規投資に関しては、二重のCfDの適用を例外として義務化せず、加盟国が二重のCfDを適用する場合は、単一市場の公正な競争環境を維持すべく、国家補助規制の制約を受けるとした。

(注)CfDは政府による長期契約の一種で、通常再エネ電力の市場価格が一定の下限価格を下回った場合に、政府が再エネ事業者にその差額を補填(ほてん)するものだ。二重のCfDでは、下限価格に加えて上限価格も設定し、市場価格が上限価格を上回った場合に、その差額を事業者が政府に支払う。差額が政府に支払われた場合、政府は一般企業を含めた消費者に還元することになる。

(吉沼啓介)

(EU)

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