コロンボ株式市場の動向、現地証券会社に聞く
(スリランカ)
コロンボ発
2023年12月21日
スリランカ経済は、2022年春以降に大きな打撃を受けていたが、2023年第3四半期(7~9月)には7四半期ぶりにプラス成長に転じ、景気回復に向かい始めている(2023年12月21日記事参照)。コロンボ株式市場の見通しや日本の投資家への期待について、現地の証券会社ランカ・セキュリティーズ(Lanka Securities)海外セールス・トレーディング部長のチャンディマ・カーリヤワッサム(Chandima Kariyawasam)氏に聞いた(インタビュー日:12月15日)。概要は次のとおり。
(問)会社概要について。
(答)当社は、1989年に設立されたパキスタンのファースト・キャピタル・セキュリティーズ・コーポレーション(First Capital Securities Corporation)、スリランカのセイロン銀行(Bank of Ceylon)、スリランカ商業金融銀行(Merchant Bank of Sri Lanka & Finance)の3者の合弁会社で、コロンボ証券取引所で認可された会員企業として、主に株式仲介業務を行っている。また、スリランカのマクロ経済状況を分析した資料などを投資家に提供している(添付資料参照)。
(問)2022年春以降にスリランカで発生した経済危機は、コロンボ株式市場で売買する投資家にどのような影響を与えたか。
(答)スリランカ政府が物価高騰対策として実施した金融引き締め政策により、経済活動は非常に低迷した。このため、経済危機は投資家に負の影響を与えた。国内消費が落ち込んだため、国内の企業は事業活動を制限せざるを得ず、投資家の株式投資によるリターンは低水準にとどまった。同時に、スリランカ・ルピー建て証券の信用度も低下した。しかし、経済はIMFの支援を受けて回復しつつあり、現在の状況は異なる。政府は厳しい金融政策を緩和し、現在の市場金利は10%前後と、2022年の下半期や2023年の上半期より大幅に低くなっている(2023年10月13日記事参照)。
(問)政府が現在進めている国内外の公的債務や民間債務の再編の動きは、コロンボ株式市場で売買する投資家にどのような影響を与えるか。
(答)スリランカは、国内の債務再編を成功裏に実施した(注1)。現在は対外債務再編について外国債権者の同意を得る過程にある。中国輸出入銀行、主要国で構成されるパリクラブの債権者、インドと債務再編に合意している。債務再編がうまくいけば、スリランカの債務負担が軽減され、債務返済が可能となり、国際的な信用格付けが改善して投資家の信頼も向上する。また、市場金利のさらなる低下にもつながり、株式市場の流動性も高まるだろう。
(問)コロンボ株式市場の現状について。
(答)12月15日時点の終値では、全株価指数(All Share Price Index:ASPI)が1万742.08、S&P SL20指数(Standard & Poor's Sri Lanka 20)が3,102.64だ(注2)。現在の株価収益率(PER)は11.18倍、株価純資産倍率(PBR)は0.94倍だ。銀行セクターのPERは4.37倍、PBRは0.5倍と、大きく割安ではある。観光業と製造業関連は転換期にあり、チャンスがあるといえるだろう。建設業は一定の回復を見せており、対外債務再編が完了すれば、回復の勢いが強まると予想される。
(問)今後のコロンボ株式市場の見通しについて。
(答)幾つかの国営企業の売却がコロンボ証券取引所を通じて行われる予定があり(2023年10月20日記事参照)、これらは市場の活況を高めると予想される。また、現在の低金利は株式投資に有利だ。さらに、2024年後半には大統領選挙と議会総選挙が予想されており、市場に影響を与える可能性がある。
(問)日本の投資家への期待について。
(答)スリランカ・ルピーの為替レートは安定している。スリランカはIMFの支援を受けて強力な経済政策を急速に導入し、初回審査を成功裏に終えている(2023年12月18日記事参照)。今後、経済活動の活発化と低金利により、株式リターンの拡大が期待される。ファンダメンタルズの強い銘柄に今ポジションを取れば、より高いリターンが期待できる。日本の金利が非常に低いことを考慮すると、コロンボ株式市場に投資することで、日本の投資家はより良いリターンを得ることができるだろう。
(注1)スリランカ政府は2023年7月、IMFの金融支援プログラムの一環として、中央銀行が保有する短期国債や政府への貸付金の長期国債への転換、年金基金が保有する長期国債の満期延長、開発債券や外貨建て債券の元本削減や満期延長、現地通貨建てへの転換などによる国内債務再編を実施した。
(注2)コロンボ証券取引所の指数は2023年6月初めから上昇し、8月にはASPIが1万1,596.16、S&P SL20指数が3,448.59を記録した。その後は12月にかけて緩やかに下降している。
(大井裕貴)
(スリランカ)
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