EU理事会、ネットゼロ産業法案の立場採択、原子力支援を明確に

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月11日

EU理事会(閣僚理事会)は12月7日、温室効果ガス(GHG)排出ネットゼロ実現に貢献する技術(ネットゼロ技術)のEU域内での生産能力拡大を支援するネットゼロ産業規則案に関して、EU理事会としての修正案となる「立場」を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。規則案は、EU域内のネットゼロ産業支援策「グリーン・ディール産業計画」(2023年2月3日記事参照)の一環として、欧州委員会が提案(2023年3月20日記事参照)したものだ。中国などのEU域外国に押される域内のネットゼロ産業を支援することで、域内の競争力強化や「強靭(きょうじん)性」(レジリエンス)の確保を狙う。欧州議会は既に交渉上の「立場」を採択していることから(2023年11月24日記事参照)、両機関は最終的な政治合意に向けて交渉に入るとみられる。

EU理事会はまず、支援対象となる「ネットゼロ技術」と、ネットゼロ技術のうち特に優先度の高い「戦略的ネットゼロ技術」の対象を拡大した。欧州議会案はネットゼロ技術と戦略的ネットゼロ技術という区分を削除して、ネットゼロ技術の対象を拡大したが、EU理事会案はこの区分を維持した。

原子力に関しては、欧州委案と比べてより幅広い技術を対象とすることで合意した。欧州委案では、小型モジュール炉などごく一部の先端的な原子力技術のみをネットゼロ技術に指定した(2023年3月27日記事参照)。一方で、EU理事会案は、原子力技術全般をネットゼロ技術に指定し、その上で核燃料サイクル技術を含む核分裂エネルギーを戦略的ネットゼロ技術に指定した。加盟国は原子力の扱いを巡って対立していたが(2023年7月20日記事参照)、欧州議会案も核分裂・核融合エネルギーをネットゼロ技術に指定したことから、政治合意では原子力技術関連の指定は欧州委案より拡大するとみられる。

公共調達規定は、欧州委案よりも保護主義的だが、欧州議会案よりは現実的

EU理事会は域内生産を優遇する公共調達規定に関して、中国排除を明確にした欧州議会案ほどではないものの、欧州委案より保護主義的傾向が強い内容で合意した。欧州委案では、EUの強靭性への貢献を入札時の考慮項目とし、「同一の供給源」からのネットゼロ技術の域内供給が65%未満の場合に貢献すると規定する。一方で、EU理事会案は、対象技術を戦略的ネットゼロ技術に限定した上で域外国製の特定の技術および主要部品の域内供給が50%未満の場合に貢献すると修正。50%以上の場合には、戦略的ネットゼロ技術の50%以上(価値ベース)の供給を域外国製としない義務と、当該技術における域外国製の主要部品の割合を50%以下(価値ベース)とする義務などを加盟国に課す。ただし、WTO政府調達協定(GPA)の対象となる公共調達のGPA締約国(日本や米国など。中国は非締約国)の企業との関係では、加盟国はこれらの義務を考慮しない。また、EU理事会には、これらの義務の適用除外を可能にする規定の条件について、欧州委案の域内製と域外国製の価格差が10%以上の場合から、20%以上の場合に引き上げた。

EU理事会案は、再生可能エネルギーの整備の競争入札では落札者選定基準のほか、入札参加希望者の事前資格審査基準の適用を可能にする。加盟国は入札対象の少なくとも20%に、次の要件を適用しなければならい。落札者選定あるいは事前資格審査の基準で強靭性を評価する必要があり、域外国製の戦略的ネットゼロ技術、あるいはその主要部品の域内供給が50%未満ならば、強靭性に貢献すると判断する。この場合も、域内製と域外国製の価格差が15%以上の場合、これらの基準の適用を除外できる。

(吉沼啓介)

(EU)

ビジネス短信 725998c6b642eaba