EU、汎欧州運輸ネットワーク(TEN-T)規則改正案で政治合意、鉄道インフラ整備強化へ

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月25日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は12月18日、EU域内の共通交通圏の創設に向けた汎(はん)欧州運輸ネットワーク(TEN-T)規則の改正案で政治合意したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。TEN-Tは鉄道、道路、水路、海路のほか、交通ターミナル、港湾、空港などからなる複合的な交通インフラ整備計画だ(2021年5月17日付地域・分析レポート参照)。今回の改正は、2050年までに気候中立の実現を目指す欧州グリーン・ディールと、それに基づくスマートモビリティー戦略(2020年12月11日記事参照)に法案を合致させるためのもの。鉄道インフラの整備や都市交通との連携により、自動車から温室効果ガス(GHG)排出量が少ない鉄道などの交通手段への切り替えを促進する。改正案は、欧州委員会が2021年12月の交通政策パッケージ(2021年12月16日記事参照)の一環として提案したもので、EU理事会と欧州議会による正式な採択を経て、施行される見込み。なお、同じく交通政策パッケージで提案した高度交通システム(ITS)指令の改正案は6月に政治合意(2023年6月16日記事参照)、12月に施行されている。

今回合意した内容はおおむね欧州委案に沿った内容だ。ただし、TEN-T規則はあくまで交通インフラ整備のための域内共通ガイドラインで、インフラを計画、建設するのは加盟国になる。このことから、今回の合意では、加盟国側の要望によって、詳細部分は現実に即して柔軟に対応することを加盟国に認める内容となっている。現地報道によると、加盟国に柔軟性を認めることで、野心的な鉄道インフラの整備計画を盛り込んだ欧州委案から後退した内容になったとの批判が一部の欧州議会議員から出ている。

TEN-Tの枠組みに関しては、(1)2030年までの完成を目指す、加盟国の重要な都市圏をつなぐ「中核ネットワーク」と、(2)2050年までの完成を目指す、中核ネットワークに接続することで域内のあらゆる地域をつなぐ「包括的ネットワーク」という現行の整備計画に、(3)2040年までの完成を目指す、包括的ネットワークの優先整備区間の「拡大版中核ネットワーク」を追加する。鉄道を中心とした複数の交通手段からなり、特に戦略的価値が高い9つの回廊に関しては「欧州交通回廊」として再編。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシアとベラルーシに接続するインフラ整備計画を撤回する一方で、加盟候補国のウクライナやモルドバとの接続を強化する。

旅客鉄道に関しては、加盟国は中核ネットワーク、拡大版中核ネットワークで時速160キロ以上の鉄道網を2040年までに整備する。列車制御システムは「欧州鉄道交通管理システム(ERTMS)」で統一する。また、短距離の空路から鉄道への切り替えを促進すべく、年間旅客数が1,200万人以上の空港については、鉄道の乗り入れと高速鉄道を含む長距離鉄道サービスを2040年末までに開始する。さらに、域内424の主要都市に対しては、公共交通機関の整備など、GHG排出ゼロを目指す持続可能な都市モビリティー計画の策定を2027年までに求める。貨物鉄道については、積み替え拠点とその対応能力を拡充させることで、鉄道利用や鉄道とトラックの組み合わせ利用を促進する。

道路輸送では、運転者の安全性確保と労働環境の改善の観点から、中核や拡大版中核ネットワークの道路網で約150キロごとに安全な駐車エリアを整備する。

(吉沼啓介)

(EU)

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