欧州委、鉄道やEV促進など、グリーン・ディールに対応した交通政策パッケージを発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年12月16日

欧州委員会は12月14日、2050年までの気候中立を目指す欧州グリーン・ディールに対応すべく新たな交通政策に関する政策パッケージ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。これは、EU域内の交通体系を持続可能なものにするスマートモビリティー戦略(2020年12月11日記事参照)を具体化させたもの。その中心となるのは、汎欧州運輸ネットワーク(TEN-T)規則の改正案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)だ。TEN-T(2021年5月17日付地域・分析レポート参照)は、域内の共通交通圏の創設に向けた、鉄道、道路、水路、海路や交通ターミナル、港湾、空港などからなる複合的な交通インフラ整備計画。この改正案は、2050年までに交通輸送分野の温室効果ガスの排出を、1990年比で90%削減すべく、鉄道や電気自動車などの環境対応型インフラの整備と鉄道のさらなる利用を促進するとともに、TEN-Tにおける異なる交通手段の一体的な利用や都市交通との連携の強化を目指すための域内共通のガイドラインとなるものだ。

TEN-T規則の改正案では、(1)2030年末までの完成を目指す、加盟国の重要な都市圏をつなぐ中核ネットワークと、(2)2050年末までの完成を目指す、中核ネットワークに接続することで域内のあらゆる地域をつなぐ包括的ネットワークからなる、現行の二重の交通網の整備計画を維持しつつ、新たに(3)包括的ネットワークの優先区間を「拡大版中核ネットワーク」として選定し、2040年末までの整備を目指す。また、鉄道の主要な旅客用路線に関して、2040年末までに最低時速を160キロ以上に対応させるなど、中核および拡大版中核ネットワークに適用されるインフラ規格を引き上げる。高速化によって、鉄道の利便性向上を図るとしている。これに関連して、欧州委は、長距離移動や加盟国間の移動における鉄道の利用がいまだに低調なことから、こうした鉄道利用を促進するための行動計画PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)も発表した。

また、今回のTEN-T規則改正案では、複数の交通手段の一体的な運用を加速させるべく、鉄道貨物輸送の強化やコンテナの積み替え拠点の増設、異なる交通手段の乗り換えターミナルの設置を推進するとしている。年間旅客数が400万人以上の空港については、高速鉄道を含め、長距離鉄道でのアクセスを確保する。都市交通に関しては、TEN-T上にある424の都市を対象として、2025年末までに排出ゼロの交通手段を重視した持続可能な都市交通計画の策定を加盟国に求めており、欧州委は、策定の際の共通指針となる新たな欧州都市交通枠組みPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)も発表した。

さらに、TEN-T規則改正案には、TEN-Tにおける電気自動車(EV)などの代替燃料自動車用の代替燃料補給インフラの整備や5G(第5世代移動通信システム)などのデジタル化も盛り込まれている。これに合わせて、欧州委は高度交通システム(ITS)指令の改正案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)も発表。TEN-Tを対象とした自動運転や安全運転支援技術である車・車間通信などの新技術への対応、交通データの収集とリアルタイムでの提供、カーシェアリングや公共交通機関との連携策などを規定している。

これらの改正案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

(吉沼啓介)

(EU)

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