EU、水素市場の域内共通ルールに関する指令案で政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2023年12月07日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は11月28日、EU域内ガス市場の共通ルールを定める指令の改正案に関して、暫定的な政治合意に達したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。現行指令における域内で統合された天然ガス市場により消費者は最も安価なガスへのアクセスが可能となっているが、同改正案はこの原則を水素市場に適用することが目的。水素の輸送ネットワークに関するEUの中心的な法的枠組みとなる。グリーン水素(2023年6月30日記事参照)や低炭素水素などをエネルギーシステムに統合させることで、天然ガスからの移行を目指す。同改正案は今後、EU理事会と欧州議会による正式な採択を経て、施行される見込み。なお、今回合意した法文案は公開されていない。

同改正案は、2030年の温室効果ガス(GHG)排出削減目標(1990年比で少なくとも55%削減)を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」の第2弾(2021年12月16日記事参照、注1)として、欧州委員会が2021年12月に提案したもの(2021年12月16日記事参照)。このガス市場改革に向けた政策パッケージには、同改正案のほかに域内ガス市場規則の改正案が含まれるが、域内ガス市場規則の改正案については、両機関による交渉が続いている。

EUはグリーン水素を積極的に推進しており(注2)、ネットゼロ産業法案における電解槽の製造(2023年11月24日記事参照)やグリーン水素の生産(2023年11月27日記事参照)などの支援枠組みの整備が進行中だ。今回の改正案で規定している域内共通ルールに基づく統合された水素の輸送ネットワークの創設に向け、今後はパイプラインなどの水素インフラの整備支援(2023年11月30日記事参照)も進むとみられる。

両機関による交渉では、水素輸送ネットワークの関連事業者の分離が最大の焦点となっていた。欧州委は当初、水素の輸送事業者(TSO)と供給事業者(DSO)の分離に関して、現行指令における天然ガスのTSOとDSOの分離要件よりも厳格な要件を課すことを提案していた。今回は原則として水素のTSOとDSOを分離するものの、ガスや電力市場のベストプラクティスに対応したルールで合意したとしており、欧州委案よりも緩やかな要件になったとみられる。また、水素、天然ガス、電気のネットワーク事業者の法的分離に関しては、分離を原則とするものの、費用便益分析に基づく加盟国の判断により例外を認めることができるとした。

このほか、両機関は、水素、天然ガス、電気の各ネットワーク開発計画でさらなる調整を行うことでも合意した。同計画は、各エネルギー部門の計画を統合し、エネルギー効率優先の原則に基づきつつ、脱炭素化が難しい部門での水素利用を優先する方針だ。

(注1)詳細はジェトロ調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向(第4回)」(2022年3月)を参照。

(注2)EUの水素政策の詳細は、2023年6月9日付地域・分析レポート「EU、グリーン水素の供給と活用に野心(1)供給目標と財政支援」を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

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