EU、経済的威圧への対抗措置の反威圧手段規則を正式採択、12月に施行予定
(EU)
ブリュッセル発
2023年11月08日
EU理事会(閣僚理事会)は10月23日、EU域外国によるEUや加盟国に対する「経済的威圧」への対抗措置を可能にする反威圧手段規則を正式に採択した(プレスリリース)。同規則は、域外国がEUや加盟国の特定行為を中止や修正させる、あるいは特定行為をさせるために実施する貿易・投資上の措置、またはそれらを実施するとの脅しを経済的威圧と定義。その上で、域外国がEUや加盟国に対して経済的威圧をかける場合に、EUが当該域外国に対して、貿易や投資への制限といった対抗措置をとることを可能にする。同規則はEU理事会と欧州議会が3月に政治合意していた(2023年4月5日記事参照)。欧州議会は既に同規則を採択していることから、11月22日に予定される署名を経て、EU官報への掲載から20日後に施行される。
EUは近年、戦略的自律の強化を掲げ、EUの利益の能動的な確保を目指す法案を立て続けに成立させており、反威圧手段規則もその一環だ。EUの従来の対抗手段は多大な時間を要する上に、機能不全が指摘されるWTO紛争解決手続き(2022年1月28日記事参照)に基づく対抗措置や、加盟国の全会一致が必要で合意形成が容易でない制裁などが中心となっていた。同規則の成立により、EUは実効性のある対抗手段を手に入れたことになる。欧州委員会は同規則案の発表当初から、中国を念頭に置いていることを示唆しており(2021年12月10日記事参照)、2023年3月には中国による経済的威圧が強まっているとの懸念を示していた。6月に発表したEU初となる経済安全保障戦略(2023年6月23日記事参照)では、中国への具体的な言及を避けたものの、同規則を積極的に活用する方針を打ち出しており、今後の対応が注目される。
同規則に基づく対抗措置の実施プロセスについては、欧州委による調査を踏まえて、EU理事会が経済的威圧を認定する。これらについて、合理的な期間内での域外国との協議による解決が難しい場合には、欧州委が対抗措置の内容を決定し、実施する。対抗措置の実効性と迅速性を担保すべく、EU理事会は全会一致でなく、特定多数決で経済的威圧を認定することができ、対抗措置の実施の期限も設定している。取り得る対抗措置の内容として、新たな関税の賦課、関税の引き上げ、輸出入の制限、公共調達からの排除、EU域内への外国直接投資の制限、銀行・保険に関する制限、EUの資本市場へのアクセス制限など幅広い措置を規定している。
(吉沼啓介)
(EU)
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