欧州委、域外国による「経済的威圧」への対抗措置を可能にする規則案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年12月10日

欧州委員会は12月8日、域外国によるEUに対する「経済的威圧(economic coercion)」への対抗措置の実施を可能にする反威圧手段規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。この規則案は、域外国が貿易や投資に制限を課すことで、EUや加盟国に対して特定の地政学的な政策の実施やその変更をするよう圧力をかける事例が増えていることから、こうした事態に対応できる権限を、欧州委に与えるというものだ。

欧州委は、この規則案の目的に関して、一義的には域外国による経済的威圧に対する抑止力を持つこととする一方で、最終手段として対抗措置を実施する枠組みを確保することとしている。欧州委は2021年2月に発表した通商政策(2021年2月19日記事参照)において、EUの地政学的な利益を積極的に擁護する自律的な体制づくりを強化するとしており、今回の規則案もその一環とした。

欧州委主導での柔軟な対抗措置の迅速な実施が可能に

同規則案では、経済的威圧の射程が広く解釈し得るものとなっており、実施し得る対抗措置の内容も広範囲なものに及んでいる。欧州委のバルディス・ドムブロフスキス執行副委員長(通商担当)は会見で、経済的威圧について、アンチダンピングのような従来型の商業目的の措置ではなく、EUあるいは加盟国の特定の政策の変更を迫るための貿易や投資への制限だとし、その意図が重要と強調。あらゆる域外国がこの規則案の対象になるとした上で、リトアニアの台湾との関係強化を背景に、リトアニアからの輸出品が中国の税関を通過できていないとの事例を挙げ、経済的威圧になり得るとの見解を示した。対抗措置に関しては、特恵関税適用の一時停止だけでなく、知的財産権、外国直接投資、金融サービス、公共調達、衛生植物検疫、化学品規制における許認可などの幅広い分野における制限的措置から、最も効果的な手段を選択できるとしている。

また、同規則案で特徴的なのは、対抗措置の実施プロセスだ。ドムブロフスキス執行副委員長は、この規則案はあくまでもEUが加盟国に対して排他的な権限を持つ共通通商政策の一環だとし、その実施権限は欧州委にあるとした。規則案によると、欧州委が、域外国の措置が経済的威圧に当たるかの調査やその認定、域外国との交渉、対抗措置の内容と実施の決定を行うとしている。EU理事会(閣僚理事会)を通じた加盟国の関与は、欧州委による対抗措置の実施の決定の際に、加盟国が特定多数決で反対しない限り承認する方式となり、制裁などのEUの域外政策を実施する上で足かせとなっていた加盟国による全会一致の賛成を不要とすることで、より迅速かつ効果的な対抗措置の実施が可能になるとしている。

この規則案は今後、EU理事会と欧州議会で審議されることになる。欧州議会からは賛成の声が聞かれるものの、一部の加盟国は欧州委の権限強化を危惧しており、審議の行方が注目される。

(吉沼啓介)

(EU)

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