米環境団体、バイデン大統領にEUのCBAMへの対抗措置を控えるよう要請

(米国、EU)

ニューヨーク発

2023年10月06日

EUで10月1日から炭素国境調整メカニズム(CBAM)の移行期間における輸入者の報告義務が始まったことを受け(2023年10月3日記事参照)、米国の主要な環境・貿易団体は10月4日、ジョー・バイデン大統領に対し、CBAMへの通商上の対抗措置を取らないよう要請する書簡外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを送った。

書簡PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は、アースジャスティス、エバーグリーンコラボレーティブ、天然資源保護協議会(NRDC)、シエラクラブ、トレードジャスティス教育基金の5団体連名による。5団体は、EUのCBAMは炭素排出や環境基準の低い国への雇用流出を防止するために喫緊で必要な措置だと評価している。他方で、諸外国がCBAMに対して、WTOへの提訴など対抗措置の検討を始めていると指摘している。その上でバイデン政権に対し、米国がCBAMと類似の措置を導入した場合(注)も含め、EUと互いの政策に通商上の対抗措置を取らないという合意に向けて協力するよう呼びかけている。また、米国はEUのように、気候変動対策で高い目標を共有する信頼できる有志国とともに、気候変動対策を遅延させコストを増加させるような対抗措置を防ぐ外交的アプローチを取るべきだと主張している。

同書簡がこの時期に提出された背景には、10月20日にホワイトハウスで米EU首脳会議が開催されることが挙げられる。ホワイトハウスの声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、会議の主要な議題は、ロシアによるウクライナに対する戦争への対応とみられるが、クリーンエネルギー経済の促進も含まれている。同声明に明記はされていないが、米EUはその議題の下、双方で2021年10月以降に交渉を続けている「鉄鋼・アルミニウム・グローバルアレンジメント」についても協議するとみられる(2021年11月2日記事参照)。これは、CBAMの対象品目に含まれる鉄鋼・アルミ製品について、米国によるトランプ前政権から続いていた1962年通商拡大法232条に基づく追加関税と、それに対するEUによる米国への報復関税を一時停戦状態にした上で、双方間の貿易上の課題にとどまらず、世界の鉄鋼・アルミを巡る炭素排出と過剰生産問題への対処を取り決めるものだ。双方は10月末を期限として交渉を進めており、その中で米国はEUのCBAM対象から米国製品を除外することなどを働きかけているとされる。米国商工会議所や各種報道によると、10月中の交渉妥結は厳しいとみられているが、首脳会議でなんらかの進展や発表があるかが注目される。

(注)現時点で米国には連邦レベルの炭素価格制度(カーボンプライシング)が存在せず、CBAMと類似の措置が導入される見込みは立っていない。連邦議会に提出された関連法案には、2021年7月に「FAIR移行競争法案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」、2022年6月に「クリーン競争法案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」などがあるが、審議が進まないまま廃案となった(2021年9月14日付地域・分析レポート参照)。

(磯部真一)

(米国、EU)

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