CBAM移行期間が開始、EU域内の輸入事業者以外も対策は必要

(EU)

ブリュッセル発

2023年10月03日

EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM、2023年8月31日付地域・分析レポート参照)の移行期間が10月1日に開始した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。対象製品の関連事業者が留意すべき点をあらためて確認したい。

CBAMとは、EU排出量取引制度(EU ETS)に基づいて域内の製造事業者に課される炭素価格と同等の炭素価格を、EU域外から輸入される対象製品に課す新規則だ。カーボンリーケージ(規制の緩いEU域外への製造拠点の移転や、域外からの輸入増加)を防止する環境政策であると同時に、炭素価格が課されていないEU域外の輸入品から、EU ETSにより炭素価格が課されている域内製品の価格競争力を保護するための産業政策でもある。

移行期間の開始により、CBAM対象製品をEU域内に輸入する事業者は、実施規則(2023年8月23日記事参照)に基づき、対象製品の輸入量とその製造過程で排出される温室効果ガス(GHG)排出量などを記載したCBAM報告書を、CBAM移行期の登録簿に四半期ごとに提出することが義務付けられる。移行期間は10月1日から2025年12月31日まで設定されており、初回のCBAM報告書(2023年10月~12月分)の提出期限は2024年1月末となる。移行期間中は報告義務のみが課され、EU ETSの炭素価格と同等の支払いが義務付けられるのは、本格適用が開始される2026年以降となる。なお、輸入事業者の報告義務に関する詳細は輸入事業者用ガイドラインPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を参照。

CBAMが直接適用される輸入事業者以外でも対策は必要、対象品目の拡大も視野に

CBAMで移行期間中の報告義務や本格適用後の炭素価格の支払い義務が課されるのは、EU域内にCBAM対象製品を輸入する事業者だが、実質的な対応を迫られるのは輸入事業者にとどまらない。対象製品を域内の輸入事業者に供給する域外の事業者や、対象製品の前駆体となる製品を製造する事業者も、報告義務を課されている域内の輸入事業者から当該製品の製造過程で排出されるGHG排出量などに関する情報提供を求められることが予想される。このため、域内の輸入事業者以外でも、自社製品がなんらかのかたちで最終的に域内に輸入される場合、欧州委が提供するEU域外の事業者用ガイドラインPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)セクター別ウェビナー外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどを活用し、GHG排出量算出に向けた対策を早期に講じる必要がある。

また、現時点では、CBAMの対象製品は鉄・鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、水素、電力とその一部川下製品〔詳細はCBAM規則付属書I外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにCNコード(注)として記載〕に限定されている。しかし、CBAMはEU ETSを補完する制度であることから、2030年をめどにCBAM対象製品はEU ETSの対象セクターの製品全般に段階的に拡大されることが見込まれている。特に有機化学品やポリマー、現行の対象品目の川下製品のうち現時点で対象外の製品について、欧州委は2025年末までにCBAM対象品目に含めるかをそれぞれ評価するとしている。対象品目の拡大の具体的な時期は未定だが、拡大の方向性は既に定まっていることから、拡大が予想される対象製品の輸入事業者や関連事業者は今後の動きを注視する必要がある。

(注)EUの域外共通関税を設定するための合同関税品目分類表(CN:Combined Nomenclature)。

(吉沼啓介)

(EU)

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