欧州委、グリーン水素の定義に関する新たな委任法案発表、原子力活用にも余地残す

(EU)

ブリュッセル発

2023年02月15日

欧州委員会は2月14日、グリーン水素の定義に関する委任規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(注)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUでは、欧州グリーン・ディールの一環として、電化の難しい産業や交通分野の脱炭素化手段としてグリーン水素を推進しており、ロシア産天然ガスからの脱却計画「リパワーEU」(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)でも、2030年までにグリーン水素の域内生産量と輸入量をそれぞれ1,000万トンにするとの目標を掲げている。

今回の規則案は、エネルギーミックスに占める風力や太陽光などの再生可能エネルギー(再エネ)の目標値を定める再エネ指令に基づく委任法令で、欧州委が2022年5月に提案した規則案(2022年5月27日記事参照)を修正したものだ。グリーン水素の定義を巡っては、加盟国間や欧州議会の政党グループ間で対立が続いており、欧州議会が当初の規則案を事実上否決したことから(2022年9月26日記事参照)、欧州委は当初案の修正を迫られていた。今回の規則案は当初案の要件をおおむね維持するものの、一部要件の適用が猶予される移行期間を後ろ倒しするほか、原子力を念頭に、発電における炭素排出集約度の低い電力入札ゾーンに関して一部要件を免除する規定が追加された。規則案は、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会が最長4カ月以内に否決しない場合、施行される。

規則案によると、グリーン水素と認められるためには、再エネ購入契約などに基づいてグリッドから電力供給を受ける場合、以下の要件を原則として全て満たす必要がある。

  • 追加性:グリーン水素生産のために追加的に設置された(水素生産施設の稼働の36カ月より前に稼働を開始していない)新設施設で発電された再エネ電力の供給を受けること
  • 時間的相関性:水素生産と再エネ発電が同一の1時間以内に行われること
  • 地理的相関性:水素生産施設と電力供給を受ける再エネ発電施設が同一あるいは相互に接続された電力入札ゾーンに位置していること

ただし、グリーン水素生産の早期拡大をこれまで以上に後押しする必要があるとして、移行期間を当初案から1年後ろ倒しの2027年末までとし、それ以前に稼働を開始した水素生産施設については追加性要件を適用しない。また、時間的相関性に関しては、当初案から3年後ろ倒しの2029年末まで、同一の1時間以内から同一の1カ月以内に要件を緩和する。

このほか、特定の条件で再エネ発電施設から電力供給を直接受ける場合や、グリッドから電力供給を受ける場合でも、水素の生産地が再エネ電力比率9割以上の電力入札ゾーンに位置する場合は、上記の条件にかかわらずグリーン水素と認められる。

また、EU向けに域外で生産された水素に関しては、域内生産と同一要件を適用することをあらためて確認し、認証制度に関しては、加盟国の認証枠組みのほか、欧州委が認定する任意の国際的な認証枠組みを利用できることを明確にした。

原子力由来の電力活用の余地認める規定追加

さらに、今回の規則案には、グリッドから電力供給を受ける場合で、水素の生産地が一定以下の炭素排出集約度である電力入札ゾーンに位置する場合、再エネ購入契約の締結と時間的・地理的相関性の要件を満たす必要はあるものの、追加性要件を免除する規定を新たに追加した。欧州委は、今回の規則案の根拠法である現行再エネ指令で、原子力は再エネの定義に含まれないと強調するものの、現地報道では、この免除規定の適用を受けられるのは、スウェーデン以外では、エネルギーミックスに占める原子力の割合が高いフランスのみであることから、実質的には水素生産で原子力活用の余地を残すべきとのフランスの主張が受け入れたものだとしている。

(注)水素を含む非生物起源の再生可能エネルギー由来の液体・ガス燃料の定義に関する委任規則。

(吉沼啓介)

(EU)

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