経済省、サン・マルティン鉱山を巡る初の労働権侵害紛争解決パネル設置要請に警戒感
(メキシコ、米国、カナダ)
メキシコ発
2023年08月29日
メキシコ経済省は8月22日、サカテカス州ソンブレレテにあるサン・マルティン鉱山での労働権侵害に関する紛争解決パネル設置要請の通知を米国通商代表部(USTR)から正式に受領したことを発表した(経済省プレスリリース8月22日付)。同パネル設置要請は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM/MLRR)」に基づくもの。メキシコ政府としては8月1日にサン・マルティン鉱山の件においてUSMCAが定めるRRMの対象外と発表していた(2023年8月2日記事参照)。経済省は今回のパネル設置要請について、RRMに基づく紛争解決パネルの設置は初めてであるため、各段階で公平性と確実性の原則に基づくことが重要と強調し、慎重に対応する方針を明らかにした。
サン・マルティン鉱山を所有するグルーポ・メヒコは「パネルにおいて、法律違反がないことを証明する」と語った。また、同社は、メキシコ全国鉱夫・冶金(やきん)・鉄鋼労働組合(SNTMMSSRM)を率いるナポレオン・ゴメス・ウルティア氏が本件の告訴状を提出したのには2つの理由があるとし、「1つは、元鉱山労働者に対して、組合資金5,500万ドルと2005年以降の延滞利息の支払いを命じる最終的な裁定(注1)を無視する新たな口実を得るためであり、もう1つは、新しい政治的地位を求めて圧力をかけるために対立構造を生み出すためだ」と主張した(「レフォルマ」紙8月22日)。
パネル設置要請の流れは今後も継続すると予想
遺伝子組み換えトウモロコシの利用制限(2023年8月21日記事参照)やサン・マルティン鉱山でのパネル設置要請が立て続けに行われたことについて、貿易仲裁専門のオスカル・クルス・バーニー弁護士は「RRMのメカニズムが米国にとって魅力的で、米国製品に影響を与えるメキシコ製品の輸出を妨害するために利用できるからだ」と発言した。また、USMCAの首席交渉官だったケネス・スミス氏は「遺伝子組み換えトウモロコシの利用制限やサン・マルティン鉱山を巡るパネル設置は偶然ではない。依然としてエネルギー問題(注2)は宙に浮いたままだ。米国での大統領選挙が近づいており、米国で政治的圧力が高まり続け、USMCAの履行に厳しい姿勢を求める多くの圧力がかかっている。今後数カ月は混乱が続くだろう」と述べた(「レフォルマ」紙8月24日)。
(注1)2007年に連邦検察庁(PGR)は、ゴメス・ウルティア氏が5,500万ドルの組合資金を不正流用したとして逮捕状を出したため、同氏は一時期カナダに亡命していた。2014年に証拠不十分で逮捕状が取り下げられたが、2021年4月に連邦調停仲裁第10特別委員会が最終裁定を下し、SNTMMSSRMとゴメス・ウルティア氏に対して5,500万ドルの資金を延滞利息込みで労働者に支払うことを命じた。
(注2)国営企業を優遇するメキシコのエネルギー政策に対して、2022年7月に米国とカナダがUSMCA違反と主張し、紛争解決に向けた協議を要請した件(2022年7月21日、2022年7月22日記事参照)。
(阿部眞弘)
(メキシコ、米国、カナダ)
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