欧州産業連盟、春季経済見通し発表、金融政策の企業投資への影響注視
(EU)
ブリュッセル発
2023年06月14日
ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は6月8日、「春季経済見通し」を発表し、2023年と2024年のEUの実質GDP成長率はそれぞれ0.7%、1.6%との予測を示した(プレスリリース
)。EUのインフレ率は、2023年は5.9%、2024年は3.1%と予想した。EUは景気後退入りを避けられたが、金利上昇や短期的に投資が減退する見込みから、企業にとっては厳しい状況が続いていると分析した。
中国のゼロコロナ政策の終了などによるサプライチェーンの正常化や、エネルギー価格の高騰に歯止めがかかったことから、ビジネスヨーロッパの半数以上の会員団体が今後6カ月について前向きな見通しを持ち、2022年11月の前回見通し発表時(2022年11月9日記事参照)より、景況感は改善に向かっているとした。しかし、地政学的リスクのほか、下落傾向にあるとはいえ高止まりするエネルギー価格やインフレ率、労務コストの上昇に懸念を示した。
加えて注視するのが欧州中央銀行(ECB)の金融政策の影響だ。金利上昇と融資条件の厳格化に伴い、ECBが四半期ごとに行うユーロ圏銀行貸し付け調査によると、企業の融資需要は第1四半期(1~3月)、金融危機の最中にあった2008年第4四半期(10~12月)以降で最も減少した。さらに、新型コロナウイルス危機関連の企業支援策の終了の影響もあり、企業の破産申し立て件数は増加傾向にあり、第1四半期は2016年以降で最も高い水準に達した。ビジネスヨーロッパの会員団体で今後6カ月、製造部門で投資が進むと予測したのは全体の13%、サービス部門での投資については4%と、短期的に企業の投資が減退するとの見方が広がっていることも分かった。ビジネスヨーロッパは、世界的な不確実性の高まりで投資が減少している一方、EUの投資先としての魅力が減退している懸念もあると指摘。グリーンとデジタル関連の規制で必要とされる投資を考慮すると、政策立案者はEUの投資環境の改善に向けた追加施策を検討すべきとした。
長期的な投資の実施についても、EUでは域外国に比べてより多くの規制が実施され、順守コストが高いことや、エネルギー価格が高水準にあることから、依然として厳しいと指摘。米国のインフレ削減法(IRA)など域外国・地域での投資支援の影響に危機感を示し、「リパワーEU」への転用が可能となった「復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)」(2023年2月24日記事参照)の執行を進め、構造改革や投資拡大、長期的な競争力強化につなげるべきだとした。EUの財政規律改革にも言及し、加盟国に対し財政規律改革法案(2023年5月2日記事参照)に速やかに合意して財政の健全化を進め、かつ危機対応能力を高めることを要請した。
(滝澤祥子)
(EU)
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