欧州委、加盟国の自律性重視の財政規律改革法案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年05月02日

欧州委員会は4月26日、EU財政規律枠組みの改革法案を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。この法案は、財政健全化への取り組みと、経済成長に向けた投資や改革の推進の両立を目指すものだ。EUでは近年、新型コロナウイルス対策やエネルギー危機対策への財政出動によって、加盟国の政府債務残高が記録的な水準に達している。一方で、成長戦略として掲げる欧州グリーン・ディールや欧州デジタル化の実現には大規模な公共投資が必要とされており、債務残高の一律削減が求められる現行の財政規律枠組みでは、経済成長に向けた十分な投資の実施が困難なことが指摘されている。

そこで、法案は、予算年次ごとの財政赤字をGDP比3%以内に抑えることや、債務残高がGDP比60%を超えないこととする現行の財政規律要件を維持しつつ、加盟国ごとの自律性を重視するために、債務残高がGDP比で60%を超える部分について毎年5%の削減を求める債務残高削減基準を廃止し、各加盟国の状況に応じた財政健全化を認める。なお、法案は発表済みの欧州委の改革案(2022年11月10日記事参照)に沿ったものだ。今後はEU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議されるが、欧州委は2023年末までに両機関による採択を目指すとしている。

法案の柱となるのは、各加盟国が策定する国別中期財政構造計画で、財政健全化に向けた多年度歳出目標などの債務削減の軌道設定と公共投資・改革案を含む計画だ。財政規律要件を満たしていない加盟国は国別中期財政構造計画で、(1)財政赤字をGDP比で3%以下に抑えること、(2)債務残高をそれ相応な水準で削減基調にすること、(3)計画終了時の債務残高を計画開始時よりも削減すること、(4)財政赤字がGDP比3%を超える場合には最低でもGDP比0.5%を毎年削減することなどが求められる。国別計画は原則4年間だが、加盟国が一定の基準を満たす投資・改革案にコミットすること条件に、最大7年間に延長することができる。これにより、加盟国は財政健全化に向けて一定の時間的猶予を与えられることになる。

国別計画は、欧州委による審査、EU理事会による承認を得る必要がある。承認後は、国別計画は法的拘束力を持つことから、加盟国は国別計画に従った財政運営が求められる。加盟国は政権交代が起きた際などに国別計画の修正申請をすることは可能だが、財政健全化策を後退させることや後ろ倒しにすることは認められない。また、加盟国は国別計画の実施状況を欧州委に毎年報告しなければならない。

法案は当初の改革案より財政慎重派に配慮した内容に

今回の法案は、欧州委の当初の改革案との比較では、加盟国の自律性が限定される内容となった。現地報道によると、欧州委の改革案では財政健全化が進まないことを懸念するドイツが(3)や(4)の追加のほか、国別計画の延長を条件付きにすることなどを求めたとしている。他方で、一部の加盟国が求めていた、財政規律要件にかかわらず、一定の条件でグリーン政策やデジタル化関連などの公共投資を認める案も含まれていない。こうしたことから、財政慎重派の加盟国と、グリーン・デジタル投資を進めたい積極財政派の加盟国による今後の審議の行方が注目される。

(吉沼啓介)

(EU)

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