EU復興基金、リパワーEUやグリーン・ディール産業計画へ転用可能に

(EU)

ブリュッセル発

2023年02月24日

EU理事会(閣僚理事会)は2月21日、復興基金(2020年9月24日付地域・分析レポート)の中核政策「復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)」(時価ベースで返済不要の補助金3,380億ユーロと融資3,858億ユーロ)の予算を、ロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」(2022年9月1日付地域・分析レポート)の一環として実施が求められるエネルギー対策に充てることを可能にするRRF設置規則の改正案を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州議会も採択済みのため、EU官報への掲載翌日から施行される。

これにより、EU各加盟国はRRF実施の前提として作成した復興計画を修正し、「リパワーEU」の実施に関する章を追加することで、グリーン技術の研究開発や、エネルギー効率の改善、再エネインフラの整備に加え、当面のエネルギー対策として液化天然ガス(LNG)のインフラ整備などにも一定のRRF予算を振り分けることが可能となる。

また、欧州委員会は、米国のインフレ削減法対策として発表した「グリーン・ディール産業計画」(2023年2月3日記事参照)にもRRF予算を転用することを提案。グリーン技術の製造部門への投資を対象にした税控除などにRRF予算を活用することができるとし、加盟国は今後あらためて作成する修正版の復興計画にグリーン技術製造支援策を盛り込むべきとしている(欧州委の2月21日付政策文書)。RRFは、新型コロナウイルス禍によって落ち込んだ経済への対策や、EUが成長戦略として掲げる欧州グリーン・ディールと欧州のデジタル化の実現に向けた改革・投資策として設置されたが、地政学的な変化を背景に、新たに浮上したエネルギー対策やグリーン技術の製造支援策向けの予算として、その目的が大幅に修正される。

ただし、専門家や欧州議会議員からは、RRF予算の転用によるエネルギー対策やグリーン技術製造支援策には限界があると指摘されている(1月18日付ユーラクティブ)。欧州委の2月21日付政策文書によると、今後割り当てができるRRF予算は、新規で追加される補助金200億ユーロがあるものの、大部分は加盟国からの申請がなくて割り当てされずに残っている融資分2,250億ユーロだ。予算の大幅増額がないままに予算用途が増えていることから、予算転用に基づく各対策の実効性を問う声は大きい。加盟国は改正案の施行後30日以内に融資申請の意向を示す必要があることから、今後の行方が注目される。

欧州委、復興計画実施は順調と評価も、予算執行は割り当て済み予算の3分の1以下

欧州委は2月21日、RRF設置規則の採択(2021年2月15日記事参照)から2年が経つことから、RRFの実施状況に関する政策文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。RRFを執行するための各加盟国の復興計画実施は順調に進んでおり、各加盟国に対するRRFに基づく財政支援はEU経済の回復に弾みをつけたと評価した。

他方で、現状では割り当て済みのRRF予算の大部分が執行されていない。RRF予算の執行は、各加盟国が復興計画で規定された改革・投資を実施し、成果目標を達成した上で、欧州委から段階的に予算の支払いを受けることになる。2023年中に各加盟国の成果目標の達成とそれに基づく加盟国へのRRF予算支払いがピークを迎えるが、これまで支払われた額は、成果目標の達成を必要としない前払い分565億ユーロを含めても、補助金・融資合わせて1,440億ユーロにとどまり、割り当て済みRRF予算の3分の1を下回っている。

(吉沼啓介)

(EU)

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