米エネルギー省、国家クリーン水素戦略を発表、2030年までに1,000万トン製造を目指す

(米国)

ニューヨーク発

2023年06月07日

米国エネルギー省(DOE)は6月5日、国家クリーン水素戦略を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。米国で現在生産されている水素は年間約1,000万トンだが、そのうち95%はクリーン水素以外の水素だ(注1)。戦略では、2030年までに年間1,000万トン、2040年までに年間2,000万トン、2050年までに年間5,000万トンのクリーン水素の製造を目指すとしている。

戦略では特に、(1)産業部門や大型輸送、クリーン電力網向けの長期間のエネルギー貯蔵といった部門でクリーン水素の利用を促進すること、(2)技術革新と規模拡大を進め、民間部門の投資を刺激し、クリーン水素のサプライチェーンを発展させることで、コストを削減すること(注2)、(3)大規模なクリーン水素の生産と最終用途が近接する地域ネットワークに焦点を当て、公平性、包括性、環境正義を確保しながら、市場の立ち上げを促進することの3点を優先事項に掲げている。また、クリーン水素の普及によって、2030年までに直接・間接の新規雇用を10万件増やし、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を2005年比で約10パーセント減少させる可能性があるとしている。同省は戦略について、バイデン政権が掲げる「2035年までに電力部門の脱炭素化」「2050年のカーボンネットフリー」という目標の達成に、大きく裨益するものだとしている。戦略は少なくとも3年ごとに更新される予定だ。

クリーン水素については、インフレ削減法(2022年10月6日付地域・分析レポート参照)に基づき、製造のGHG排出強度(注3)に応じて、水素1キログラム当たり最大0.6ドルの税額控除が付与される。この効果もあって、新規投資の動きが盛んだ。

また、最近では国際協調も活発だ。2023年1月には米国石油サービス大手ベーカー・ヒューズと、オーストラリアのグリーン技術企業フォーテスキュー・フューチャー・インダストリーズがグリーン水素などプロジェクトの実施に向けた覚書を締結した(2023年1月31日記事参照)。さらに同月、米国の燃料電池システム開発企業プラグパワーと、英国で水素事業を手掛けるジョンソン・マッセイがグリーン水素経済圏の加速に向けて長期的戦略提携を発表した(2023年2月1日記事参照)。日本でも、6月6日に「水素基本戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」が策定されており、クリーン水素の開発に向けた動きは国際的にますます活発化しそうだ。

(注1)水素は製造方法によって、(1)化石燃料を燃焼させたガスを改質することで製造する「グレー水素」、(2)グレー水素製造工程で排出された二酸化炭素(CO2)を回収し貯または利用(CCS、CCUS)することでCO2排出を抑える「ブルー水素」、(3)再生可能エネルギーを利用して水を電気分解することで製造し、製造工程でCO2を発生させない「グリーン水素」などに分かれる。ここでいうクリーン水素は(3)に該当。

(注2)DOEは2021年6月、クリーン水素の製造コストを10年以内に80%削減し、1キログラム当たり1ドルに引き下げる目標を設定している。

(注3)一定量のクリーン水素を製造する際に排出されるGHGの量。

(宮野慶太)

(米国)

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