サリバン米大統領補佐官、的を絞った公共投資で国内産業基盤強化の方針強調

(米国、中国)

ニューヨーク発

2023年05月01日

米国のジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は4月27日、米国シンクタンクのブルッキングス研究所で、バイデン政権の国際経済政策について講演外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同補佐官はこの講演外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、政権が通商を含む国際経済に関わる課題に対し、国内政策を動員して対応していると強調した。

サリバン補佐官は、米国はバイデン政権発足時に4つの課題に直面していたと振り返った。第1は産業基盤の空洞化で、市場の効率性という過度に単純化された前提に基づく政策により、戦略物資のサプライチェーン全体が産業、雇用とともに、国外に移転したと指摘した。第2に地政学や安全保障に関わる非市場経済国との競争を挙げた。中国がルールに基づく国際経済秩序に背き、クリーンエネルギーなど未来の主要産業に大規模な補助金を拠出し続ける一方、米国はそれらの技術で競争力を失ったとの見方を示した。第3には加速する気候危機と、公正で効率的なエネルギー転換を行う必要性を挙げた。第4の課題として、米国は不平等とそれがもたらす民主主義への損害に直面していたとした。貿易が生む利益は多くの労働者に共有されず、公共投資の大幅な削減なども相まって「強靭(きょうじん)な民主主義の基盤となる社会経済的な基盤にほころびを生じさせた」と述べた。

サリバン補佐官はこれら4つの課題に対処するため、国内で強靭なインフラを含む公共財を供給できる能力を築くための産業戦略を取ると主張した。そのためには「経済成長の基盤であり、国家安全保障の観点から戦略的で、民間企業だけでは国家目標を果たすのに必要な投資を行う体制が整っていない分野」に的を絞った公共投資を行う必要があると説明。具体的には、先端半導体や重要鉱物の製造・生産能力の偏在を問題視し、同志国と連携して強靭な産業基盤の構築を目指すと訴えた。その一例として、日米政府が3月に署名した日米重要鉱物サプライチェーン強化協定などに触れた(2023年3月29日記事参照)。

サリバン補佐官は従来の自由貿易協定(FTA)の限界も指摘した。バイデン政権は市場の自由化を断念したわけではないとしつつ、「関税の引き下げに基づいて(通商)政策を定義する」のは誤りとの考えを提示した。追求すべきは今日の課題を解決する「現代の貿易協定」で、それによって信頼性のある、安全で開かれたデジタルインフラの構築や、労働者や環境の保護などに取り組むべきと唱えた。実際に、バイデン政権はこうした目的のために、インド太平洋経済枠組み(IPEF)や経済繁栄のための米州パートナーシップ(APEP、2023年1月30日記事参照)を設計したと説いた。

サリバン補佐官は最後に、中国を念頭に置いた米国の技術の保護策についても解説した。米国商務省が2022年10月に発表した対中半導体輸出規制(2023年2月2日記事参照)に関し、国家安全保障上の懸念に基づいて慎重に調整された措置であり、中国政府が言うような「技術封鎖」ではないと言明した。対中関係全般を巡っては、「分断(decoupling)ではなく、リスクの低減(de-risking)と多様化(diversifying)を支持する」と指摘。米国のイエレン財務長官が前週に行った講演(2023年4月21日記事参照)で語ったように、米国は国家安全保障上の利益を守りつつ、中国と健全な経済競争を行い、可能な分野では協力するとの政権の立場を繰り返した。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

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