イエレン米財務長官、対中政策で国家安保優先の姿勢強調、「適切な時期に訪中を計画」

(米国、中国)

ニューヨーク発

2023年04月21日

米国のジャネット・イエレン財務長官は4月20日、首都ワシントンのジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院で、米中の経済関係について講演外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

イエレン財務長官は講演の初めに米国の経済状況に焦点を当てた。米国が新型コロナウイルス感染拡大による経済停滞から力強い回復を果たしたことなどを引き合いに、米国は経済力や技術革新で比類のないリーダーであり続けていると強調した。また、中国との競争については、中国の経済成長と米国の経済的リーダーシップは両立しないものではないと訴えた。

イエレン財務長官は経済面での対中政策の原則として(1)米国と同盟国・パートナー国の国家安全保障上の利益確保と人権保護、(2)中国との健全な経済競争、(3)地球規模の課題での協力の3つを示した。

(1)に関し、中国の軍事活動から特定の技術を保護することは米国の重要な国益だとして、必要に応じて的を絞った措置を講じると主張した。具体的には、輸出管理や経済制裁により中国の軍民融合に対処すると語った。また、国家安全保障上のリスクに対応するために、既存の対内投資審査に加え、「特定の機微な技術の米国からの対外投資を制限するプログラムを検討している」とも明らかにした(注)。

イエレン財務長官は、これらの措置は「米国が競争上の経済的優位を得たり、中国の経済的・技術的現代化を阻害したりするために設計されているわけではない」と言明した。一方、米国の経済的利益が損なわれる場合でも、国家安全保障では妥協しないとの姿勢を示した。国家安全保障に関わる措置を経済分野で講じる上での原則には、範囲と対象を目的に沿って限定することや、容易に理解でき執行可能なこと、同盟・パートナー国と制度設計と実行で協力することを挙げた。

(2)については、米中の経済は深く統合されているため、中国との「デカップリング」は追求しないと説いた。また、米国の経済政策の中心は自国への投資であり、他国の経済を抑圧することではないと強調し、バイデン政権で成立したCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法、2023年3月28日記事参照)などの主要な法律に基づいて、米国経済の生産能力の拡大に取り組む方針を示した。一方で、米中両国が相互に利益を得る健全な経済競争を行うには、両国が公平なルールの下で競争する必要があるとして、知的財産の窃取や技術移転の強要など中国の不公正な貿易慣行を問題視した(2023年4月5日記事参照)。こうした不公正な慣行が中国における重要物資の生産能力の過度な集中を招いたことから、米国は友好国との間でサプライチェーンを構築する「フレンドショアリング」に取り組んでいると言及した。

(3)に関しては、米中はマクロ経済や金融面で協力するために安定した意思疎通のラインを構築し続ける必要があると指摘した。両国が協力できるそのほかの分野として、新興・途上国の過剰債務問題と気候変動も挙げた。これらの分野は、米国のジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席による2022年11月の首脳会談でも取り上げられ、イエレン財務長官も2023年1月に中国の劉鶴副首相(当時)と会談した際に協議している(2023年1月20日記事参照)。

イエレン財務長官は演説の最後に、今後も中国に関与すべく、「適切な時期に中国を訪問する予定だ」と述べた。

(注)バイデン政権は既に対外投資審査制度の概要を固め、産業界に説明を始めており、4月中にも大統領令を発出する予定とされている(政治専門紙「ポリティコ」4月17日)。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

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