バイデン米政権、労働力開発に関するロードマップを策定

(米国)

ニューヨーク発

2023年05月18日

米国バイデン政権は5月16日、国内の労働力開発のための施策を取りまとめた「良い仕事を支えるロードマップ(Roadmap to Support Good Jobs)」を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

政権はロードマップ作成の意図について、全ての米国人が、大学進学の有無にかかわらず、地域社会を離れることなく、質の高い職業訓練、教育を等しく受けられるようにするため、としている。ロードマップは、次の4つの項目で構成される。

  1. 人々を良い仕事につなげる
  2. 変革的投資に必要な熟練した多様な労働力の確保
  3. 全ての地域社会が基礎的な労働力需要を満たせるよう教育、訓練の取り組み強化
  4. 家族を支える質の高い仕事の創出

1.については、全ての人が地域社会で質の高い仕事に就き、企業が優秀な人材を確保できることを目的とする。目的の達成に向けて今後、実習制度などの無料および安価な職業訓練機会の拡大、育児支援など就業に役立つサービスの提供、学位ではなく才能とスキルに基づく採用の奨励などに取り組むほか、労働省が、全国的な実習制度構築のためのルール作りを進めるとしている。

2.については、政権がこれまでに成立させたインフラ投資雇用法、CHIPSおよび科学法(2022年8月26日記事参照)、インフレ削減法(2022年8月17日記事参照)などに基づく投資を成功させるためには、国の教育・訓練システムがこれら成長分野における新たなニーズに適応できるかにかかっている、と課題を提起している。これを踏まえ、商務省が新たに全国に設置するテックハブ(Tech Hubs外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を通じて5億ドルを拠出し、新興技術における国際競争力を高めるなどの施策を盛り込んだ。テックハブには、第1弾として、アリゾナ州フェニックス、オハイオ州コロンバス、ペンシルベニア州ピッツバーグ、メリーランド州ボルティモア、ジョージア州オーガスタの5都市が指定されている。

3.については、ヘルスケア、育児、教育、交通など地域社会を支える部門において、労働力需要を満たし、雇用の質を向上させるための取り組みを継続するとした。

4.については、全ての仕事を福利厚生や安全性、安定性、労働者の声に配慮した高賃金で質の高い仕事にするのが目標だとし、具体的には、労働者の団結権と団体交渉権拡大による良い雇用を創出する雇用者責任の強化、連邦政府の調達や資金提供に際し仕事の質に関する基準の導入などの施策に取り組むとしている。

政府がこうした施策を取りまとめる背景には、国内での深刻な労働力不足がある。2023年4月の失業率は3.4%と低位で推移しており、失業者1人当たりの求人件数は1.64件と(2023年5月8日記事参照)、労働市場は完全雇用に近い状況にある。連邦政府は半導体や電気自動車(EV)用バッテリーなど重要物資の生産回帰を促す政策を推進するが、産業界からは「そもそも国内でモノづくりを担う人材が不足している」(日系自動車部品メーカー)といった指摘が根強い。5月2日には商務省と労働省、教育省が共同で国内に投資する外国企業を対象に労働力開発などの支援を強める「セレクト・タレントUSA」の立ち上げを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした(2023年5月8日記事参照)。政府による一連の対策が労働需給逼迫の軽減につながるのか、今後の行方が注目される。

(米山洋)

(米国)

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