エネルギー安全保障とネットゼロ達成に向けた新たな計画発表
(英国)
ロンドン発
2023年04月05日
英国のグラント・シャップス・エネルギー安全保障・ネットゼロ相は3月30日、英国の長期的なエネルギー安全保障と自立の強化を目指し、安価かつクリーンな国産電力の拡大と、グリーン産業の繁栄構築のための野心的な計画「パワーリングアップブリテン」を発表した(添付資料表参照)。
政府はこれまで「ネットゼロ戦略」(2021年10月26日記事参照)と、エネルギー価格高騰を踏まえた「エネルギー安全保障戦略」(2022年4月13日記事参照)を打ち出し、エネルギー政策を展開してきた。これらを踏まえ、ネットゼロを達成しながら、エネルギー安全保障を実現し、英国の国際競争力を高めるべく、新たな計画を打ち出した。「パワーリングアップブリテン」は、「エネルギー安全保障計画」と「ネットゼロ成長計画」の2つの計画で構成される。
主要な資金提供を含む具体的な施策は以下のとおり(既に発表されていた分を含む)。
- 浮体式洋上風力向け港湾インフラプロジェクト支援の推進〔1億6,000万ポンド(約265億6,000万円、1ポンド=約166円)〕
- ネットゼロ水素ファンド(2億4,000万ポンド)により新たなグリーン水素プロジェクトを支援
- 再生可能エネルギー支援スキームの差額決済契約(Contracts for Difference:CfD)制度(注)による第5回オークションの開始(2億500万ポンド)
- 全国の電気自動車(EV)充電インフラ強化(3億8,000万ポンド超)
- ヒートポンプ暖房への買い替え支援策「ボイラーアップデートスキーム」の延長(2025年から2028年まで)
また、EUで設置に向けた動きが進む炭素国境調整メカニズム(CBAM、2022年12月14日記事参照)の英国版の導入を含む、カーボンリーケージ(規制の緩い英国域外への製造拠点の移転や域外からの輸入増加)への対応に関する意見公募実施を併せて発表した。
なお、同計画は、1月に公表したネットゼロ達成に向けた政策に関するレビュー報告書「ミッションゼロ」(2023年1月19日記事参照)の提言項目にも対応しており、同報告書の129の推奨事項に対して今後の対応の方向性を公開している。
今回の計画に対し、産業界は歓迎の意を示している一方、報道によると、既存のコミットメントに基づくもので、新たな資金投入が不足しているという指摘もある(「ガーディアン」紙3月30日)。
(注)発電事業者の再生可能エネルギーへの投資リスクを減らすため、運転開始から15年間、対象となる電源の固定価格と市場価格の間の変動する差額を政府が補填(ほてん)する制度。事業者はオークションで、技術ごとに自社の固定価格と設備容量を提示し競う。詳細はジェトロの調査レポート「英国の気候変動対策と産業・企業の対応」21ページ以降参照。
(菅野真)
(英国)
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