米USTR、USMCAに基づきメキシコに2件の協議・確認を要請

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年03月08日

米国通商代表部(USTR)は3月6日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づき、メキシコ政府に対して、農業向けバイオ技術に関する規制と、自動車部品企業での労働権侵害の疑いについて、それぞれ協議の申し入れと事実確認の要請を行った。

まず、農業向けのバイオ技術に関する規制に対する協議申し入れ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますについては、メキシコが導入している遺伝子組み換えのトウモロコシおよびそのほかの特定の遺伝子組み換え製品に対する規制が、USMCA第9章「植物衛生基準(SPS)」に不整合、との主張に基づいたものとなっている(2023年3月8日記事参照)。米国の懸念は、メキシコ政府が2020年末に公布した政令が発端となっている。同政令は、遺伝子組み換えトウモロコシと除草剤グリホサートの使用を段階的に制限・禁止する内容となっており、米国農業界とその声を受けた米国政府はメキシコに規制変更を働きかけていた。メキシコ政府は2023年2月に、2020年の政令を一部緩和する新たな政令を公布したが、米国政府は懸念が解消されていないとの立場を示していた(2023年2月16日記事参照)。キャサリン・タイUSTR代表は「メキシコの政策は数十億ドルもの農業貿易を混乱させるとともに、気候変動と食糧危機への対処に必要なイノベーションを抑制するものだ」との声明を出している。USMCAによると、両国は30日以内に面会し、180日以内に問題解決に取り組むことになっている。

自動車分野で7件目の労働権侵害の確認要請

またUSTRは同日、USMCAが定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」(注1)に基づき、自動車部品メーカーのユニーク・ファブリケーティング(本社:米国ミシガン州)がメキシコ中北部ケレタロ州に有する施設で労働権侵害の疑いがあったとして、メキシコ政府に事実確認を要請外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。今回の件はメキシコ内の労働組合から、ユニーク・ファブリケーティングの施設で集会・結社の自由と団体交渉の権利が侵害されている旨の提訴を受けた動きとなる。メキシコ政府は調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に完了する必要がある。米国は両国間で労働権侵害の解消に合意するまで、メキシコの当該事業所からの製品輸入について、最終的な税関での精算を留保できる。実際、タイUSTR代表は財務長官に対し、当該工場からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。USTRは2020年7月にUSMCAが発効して以降、RRMによる手続きを積極的に活用しており、2023年以降で2回目、累計で7回目となる。その全てが、メキシコ内の自動車関連工場での労働権侵害の疑いに基づくものとなっているが、メキシコ政府の積極的な協力を受けて、そのほとんどが短期間で問題解決に至っている(注2)

(注1)RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。

(注2)過去6件のうち、1~5件目は解決済み。ただし、6件目は、いったんは問題が解決した5件目と同一の事業所での労働権侵害の疑いとなっている。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

ビジネス短信 bbb3c18471a4076a