EU理事会、ガス上限価格を導入する市場修正メカニズム設置規則案に政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2022年12月21日

EU理事会(閣僚理事会)は12月19日、エネルギー担当相の臨時会合をブリュッセルで開催し、最大の焦点となっていたガスの上限価格を導入する市場修正メカニズム設置規則案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)に政治合意した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。規則案は正式に採択された後、2023年2月1日に施行、1年間の期限付きで適用され、同メカニズムは2月15日以降に発動可能となる見込み。

今回の会合では、同メカニズムの発動要件について、(1)3営業日にわたり、欧州の天然ガス価格の指標となっているオランダTTF(Title Transfer Facility)の期近物価格が1メガワット時(MWh)当たり180ユーロを超え、かつ、(2)同一期間に、世界の液化天然ガス(LNG)参照価格を35ユーロ以上上回ることとすることで合意した。これは、欧州委が当初示していた発動要件(2022年11月24日記事参照)を大幅に緩和するものだ。発動要件を巡っては、加盟国間で意見が大きく割れていたが(2022年11月28日記事参照)、最終的には、同メカニズムがガスの安定供給に悪影響を与えた場合のセーフティーネットをより強固にすることで、懐疑派が積極派の求めていた発動要件の大幅な引き下げを受け入れたとみられる。

なお、注意が必要な点は、(1)の1MWh当たり180ユーロは厳密にはガスの上限価格ではなく、あくまで同メカニズムの発動要件であることだ。同メカニズムが発動された場合に適用される上限価格は、世界のLNG参照価格と1MWh当たり35ユーロの合算という変動型だ。世界のLNG参照価格が1MWh当たり145ユーロを下回った場合は、上限価格は発動要件と同じ1MWh当たり180ユーロで維持されるが、世界のLNG参照価格が同145ユーロ以上の場合には、上限価格は180ユーロ以上で変動することになる。同メカニズムが発動された場合、上限価格は少なくとも20日間適用され、同メカニズムの適用対象となる欧州委が提案していた期近物に加えて、3カ月と12カ月先物の取引で上限価格を超える注文は受理されなくなる。

今回の合意では、同メカニズムのセーフティーネットも強化された。同メカニズムの発動後に3日連続で世界のLNG参照価格が1MWh当たり145ユーロを下回った場合や、ガス需給の逼迫などによって欧州委が緊急事態を宣言した場合には、上限価格の適用は解除される。また、ガス需要が1カ月で15%、あるいは2カ月で10%増加した場合や、LNGの輸入量や前年同期比でTTFの取引量が大幅に低下した場合などには、欧州委は同メカニズムを停止することができる。

ガスの共同調達、新たなLNG価格指標など、その他の規則案でも合意

EU理事会は同日、市場修正メカニズム設置規則案に加えて、11月24日の会合で既に大筋で合意していたガスの共同購入や、新たなLNG価格指標の策定などに関するエネルギー緊急規則案(2022年10月20日記事参照)を正式に採択したほか、再生可能エネルギー整備の許可手続きの簡略化に関する規則案(2022年11月17日記事参照)も政治合意した。

(吉沼啓介)

(EU)

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