国民投票規制に反発したトーレス首相が辞任、議会は後任を疑問視
(ペルー)
リマ発
2022年11月28日
ペルーのペドロ・カスティージョ大統領はアニーバル・トーレス首相が提出した辞表を受理したことを11月24日に発表した。トーレス首相の辞任理由は、17日に議会に提出した憲法改正などの国民投票を規制する法律第31399号(注1)の撤回を求めた信任決議案について、議会幹部(議長と3副議長)が審議を受け付けなかったためだ。トーレス首相は憲法裁判所(TC)にも同法の違憲審議要請を提出していたが、こちらも「憲法違反の根拠なし」として却下されている。
トーレス首相の辞任を受け、カスティージョ大統領は24日の放送で「国民投票を通じた政治への国民の参加の権利を剝奪する法律の撤回を求めた信任決議案が議会によってあからさまに拒否された。さらに、大統領罷免やうその訴えなどで政権運営を邪魔する議員グループがいる」と議会を非難し、内閣改造を行うことを発表した。翌25日、ペルー・リブレ(ペルー自由:PL)党を離党して現在ペルー・デモクラティコ(ペルー民主主義:PD)党所属のベッツィー・チャベス前文化相(2022年5月までは労働雇用促進相)をカスティージョ政権の第5代の首相に任命した。
後任首相は史上最年少、経済界と衝突招いた改正アウトソーシング法の立役者
ベッツィー・チャベス氏は33歳で、ペルー史上最も若い首相となる。労働雇用促進相時代に改正アウトソーシング法成立の立役者(2022年4月20日、2022年8月19日、2022年10月20日記事参照)として経済界との衝突を招いたほか、2022年4月には航空管制官のストライキ黙認問題が起こり、議会に解任された。そのほかにも、職権乱用と学歴詐称(注2)などの不正疑惑を抱えており、議会から既に任命を疑問視する声が上がっている。経済界も、ペルー輸出業協会(ADEX)会長のほか、ペルー経団連(CONFIEP)が中小企業経済団体や地方商工会議所などと連名で、チャベス新首相任命に対する懸念を表明し、有能で経験値の高い新内閣形成を求める書状を発出している。
(注1)議会が2022年1月に採択した「憲法改正」「法律採択」「市政令」「地方分権」関連への国民投票を規制する法律。さらに憲法改正の場合は議会の承認(66人以上)を得ることを規定している。
(注2)チャベス氏のパートナーの家族(3人)を労働省所管委員会委員長や自身の議会事務所に採用するなどの便宜を図ったとされているほか、大学卒業論文の半分近くが他文献を転用していると指摘を受けている。
(設楽隆裕)
(ペルー)
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