スペイン、発電用ガス価格に介入、ウクライナ情勢によるインフレの抑制実効策と期待

(スペイン、ポルトガル、EU)

マドリード発

2022年06月14日

スペイン政府は6月14日から、発電用の天然ガス価格に1メガワット時(MWh)当たり40ユーロの上限価格を導入する。介入期間は2023年5月末までの1年間で、7カ月目以降は段階的に上限価格を引き上げ、最終的に予想市場価格(70ユーロ)に収める。ポルトガルも同様の価格介入を実施する。

この介入措置は、3月下旬の欧州理事会(EU首脳会議)で、EU電力市場におけるイベリア半島の特殊性が認められたことに伴って策定し、欧州委員会が6月8日に実施を承認した。

スペインとポルトガルは再エネ発電の割合が高い一方、電力相互接続率が著しく低い。そのため、天候不良の際も隣国からの安価な電力輸入が困難で、天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電などのバックアップ電源の稼働が必要となる。EU共通の電力の卸売価格決定システムでは、バックアップ電源が稼働すると、その価格が卸売価格となるため、両国はウクライナ情勢による国際ガス価格高騰による影響を特に大きく受けていた。

政府の試算によると、同措置により現在1MWh当たり200ユーロを超える卸売価格が同130ユーロ以下と、2021年夏の水準にまで抑えられる。また、規制電気料金ベースで15~20%程度引き下げられると報じられている。ここ数カ月にわたり8~9%台で推移するインフレの引き下げ効果も見込まれる。

財源は電力輸出収入と利用者への賦課金など

欧州委によると、今回の介入コストは63億ユーロ(ポルトガルと合わせて84億ユーロ)に上り、スペイン送電網管理会社がフランスとの電力融通で得る利益の一部や、恩恵を受ける利用者への賦課金などで賄われる。

スペイン政府は3月末以降、ウクライナ情勢に伴う影響に対する緊急対策の枠組みで、エネルギー価格高騰への対抗策を実施。ガソリンなど燃料価格の1リットル当たり0.2ユーロの割引措置に加え、電気料金引き下げのための減税継続や、電力高騰の恩恵を受けているとされる発電事業者(大型水力や原子力、再エネ発電など)の超過利益削減などの措置を取ってきたが、エネルギー相場の乱高下により効果は薄い。今回の措置は、電力料金を構造的にコントロールする措置として、実効性が大きく期待されている。

(伊藤裕規子)

(スペイン、ポルトガル、EU)

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