米USTR、メキシコ自動車工場での労働権侵害の疑いでメキシコ政府に確認要請、類似案件で5件目

(米国、メキシコ)

ニューヨーク発

2022年07月22日

米国通商代表部(USTR)は721日、メキシコ北部コアウイラ州ピエドラス・ネグラス市にある自動車部品メーカー、マニュファクトゥラスVU(以下、VU)の工場で労働権侵害の疑いがあったとして、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」に基づき、メキシコ政府に事実確認を要請したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

RRMは、事業所単位で労働権侵害の有無を判定する手続きで、違反が認められれば、USMCAによる特恵措置の停止といった罰則が適用される。RRMの手続きはUSMCA加盟国政府が独自に発動できるが、労働組合などの第三者機関が加盟国政府に労働権侵害を提訴することも可能だ。加盟国政府がそのような提訴を受け取った場合は、労働権侵害が疑われる事業所が所在する加盟国の政府に対し、事実確認を要請するか30日以内に判断する。今回の件は、メキシコの労働組合であるメキシコ労働総同盟(La Liga Sindical Obrera Mexicana)と労働者国境委員会(Comite Fronterizo de Obreras)が、VUの工場で働く労働者の集会・結社の自由と団体交渉の権利が侵害されたとして、米政府に提訴したことが発端だ。

USMCAに基づくと、事実確認の要請を受けたメキシコ政府は調査を行うか否かを10日以内に返答しなければならず、調査を行う場合には45日以内に調査を完了する必要がある。また、今回のUSTRによる確認要請をもって、米国は問題となっているメキシコの事業所からの製品輸入について、両国間で労働権侵害が解消されたことに合意するまで、最終的な税関での精算を留保することができる。実際、キャサリン・タイUSTR代表は財務長官に対し、VUの当該工場からの製品輸入にこの措置を適用するよう指示外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

USTR20207月にUSMCAが発効して以降、RRMによる手続きを4回発動している。いずれもメキシコ内の自動車関連工場の案件だが、最初の3件は、外部専門家で構成するパネルを設置する前に事案は解決している(2021年8月12日記事2021年9月24日記事2022年7月15日記事参照)。また、4件目は、20226月上旬に米政府からメキシコ政府に確認要請がなされた案件で、現在はメキシコ政府による事実確認中となっている(2022年6月8日記事参照)。USTRは前日の720日、メキシコのエネルギー政策がUSMCAに違反しているとしてメキシコ政府に協議を要請しており、積極的なUSMCAの活用が目立っている(2022年7月21日記事参照)。

(磯部真一)

(米国、メキシコ)

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