アジア太平洋の経済秩序の未来を議論、ジェトロ・米シンクタンクセミナー

(米国)

ニューヨーク発

2022年06月27日

ジェトロと米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は6月23日、「アジア太平洋地域における経済秩序の未来(The Future of Economic Order in the Asia-Pacific Region)」と題するセミナーを共催外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

米国のマリサ・ラーゴ商務次官(国際通商担当)は開会あいさつで、ジョー・バイデン大統領は今後数年の世界の経済成長を牽引するインド太平洋地域に関与することは将来の繁栄と経済安全保障、世界の問題に対処する能力を確保するために必要不可欠と認識していると強調した。その上で、米国の経済的関与の礎となるのは、5月に日本で立ち上げた「インド太平洋経済枠組み(IPEF」」(2022年5月24日記事2022年5月30日記事参照)だと指摘。IPEFの交渉は複雑になると予想する一方、包摂的な枠組みはより重要で永続的な結果をもたらすと主張した。

基調講演を行ったジェトロの佐々木伸彦理事長は、トランプ前米政権が環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)から離脱し、米中摩擦が固定化して以降、アジアで起きた最も大きな変化は中国とASEANの経済関係の強化だと指摘した。一方、シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所の調査では、ASEANの有識者の約70%が米国の影響力を歓迎していると紹介し、米国はASEANからの信頼が高い日本とともに、地域のルール形成に貢献すべきと提起した。特に、アジアでデータの自由な流通を制限する規制が広がっていることに懸念を示し、IPEFではデジタル貿易に関わる課題に対処する必要があると述べた。最終的には米国がCPTPPに復帰することが望ましいとし、それを核としてWTO改革にもつなげていくべきと締めくくった。

パネルディスカッションでは、日米中ASEANの有識者が各国・地域の視点からインド太平洋の経済秩序の展望を議論した。対外経済貿易大学の中国WTO研究院の屠新泉院長は、新たな経済秩序を作るのではなく、現状の多国間枠組みに基づいて経済統合を進めることが中国にとって望ましいとの認識を示した。中国のCPTPPへの加入申請については、中国がCPTPPの全ての基準を短期間で満たすことは難しいとしつつ、全国人民代表大会常務委員会が4月に「強制労働条約」(1930年)と「強制労働廃止条約」(1957年)の批准を承認するなど、中国は具体的な行動を起こしていると語った(2022年4月22日記事参照)。神奈川大学の大庭三枝教授は、日本はCPTPPや地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の交渉過程で「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」というビジョンを掲げ、ルールに基づく地域秩序の重要性を強調したが、どのようなルールに基づいて秩序を作るかが重要になると述べた。具体的には、日本は貿易や投資の自由化だけでなく、デジタル技術の社会実装や同志国との安定的なサプライチェーンの構築、気候変動問題でのルール形成に貢献すべきと説いた。

シンガポール国際問題研究所のサイモン・テイ理事長は、ASEANの目標は異なる主要国と等しくパートナーであり続けることだと説明した。とりわけ、米国または中国がテクノロジーの分野で一方的にルールを作ることに懸念を示し、域外からの技術や資金を必要とするASEANにとって開放的な地域主義の重要性を訴えた。CSISのマシュー・グッドマン上級副所長は、IPEFは米国がインド太平洋地域で信頼性と継続性のある戦略を持つべきとのバイデン政権の認識の表れだと指摘。IPEFの4本柱(注)のいずれについても参加国は米国との議論を望んでいるとし、協議を通じてこれらの分野で共通の基準や規範を推進できると評価した。他方で、環境や労働、デジタル経済の分野で高い基準に合意できる効果的な枠組みになるかが焦点とし、今夏に行われる見込みの参加国による正式会合(2022年6月14日記事参照)に注目したいと語った。

(注)(1)公平で強靭(きょうじん)性のある貿易、(2)サプライチェーンの強靭性、(3)インフラ、脱炭素化、クリーンエネルギー、(4)税、反腐敗。

(甲斐野裕之)

(米国)

ビジネス短信 a145ef802a544eae