WTO事務局長が初の南米公式訪問、経済団体は次回閣僚会合に向けた提言書を手交

(ブラジル)

米州課

2022年05月02日

ブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領とカルロス・フランサ外相は4月18日から19日にかけ、首都ブラジリアでンゴジ・オコンジョ=イウェアラWTO事務局長と会談を行った。オコンジョ=イウェアラ事務局長は2021年3月の就任以来、初めて南米を公式訪問した。

ブラジル外務省によると、ボルソナーロ大統領は会談の中で、食糧安全保障の観点から農業関連製品、特に肥料をブラジルが十分に確保することの重要性を強調した。ブラジルはロシアから、農業に不可欠な窒素肥料を含む肥料を多く輸入しており、ロシアのウクライナ侵攻による自国農業への影響を懸念しての発言とみられる(注1)。

フランサ外相は、新型コロナウイルス感染拡大による副次的な影響への対応や、国際的な食糧生産とサプライチェーンの回復を促進するべく、WTOの関与に期待を示した。また、6月12日から15日に開催が予定されている第12回WTO閣僚会議(MC12)に関して、「貿易と健康」「漁業補助金」「農業」「WTO改革」の4つの主要テーマ合意に向けた事前交渉で、ブラジルも積極的に関与していくことを強調した。

オコンジョ=イウェアラ事務局長は19日、ブラジル全国工業連盟(CNI)とサンパウロ州工業連盟(FIESP)が主催するビジネスダイアログに出席した。CNIによると、100人以上のビジネスパーソンが会合に参加した。

CNIはビジネスダイアログの中で、「MC12にむけた優先事項PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」と題する提言書を事務局長に手交した。同提言書には13の事項が提言されている。中でもCNIは、漁業補助金の禁止やWTO上級委員会の復活を強く要望している。漁業補助金については、2021年5月に公開された、議長テキスト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます第3条の「違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)に対する補助金」などの禁止に賛同している(注2)。

WTO上級委員会の復活については、WTOの紛争解決処理制度における上級委員会の機能が停止している状態を懸念し、一日も早い復活を求めている。CNIによると、ブラジルはインドネシアやタイ、米国などに対し5つの案件で上級委員会に申し立てを行っている。だが、上級委員会の機能不全により審理ができない状態が続いている(注3)。

(注1)ブラジル全国肥料普及協会(ANDA)によると、ブラジルで使用される肥料の85%は輸入に依存している。ブラジルが2021年に輸入した肥料の主な輸入元はロシア、中国、カナダ、モロッコ、ベラルーシなど(2022年3月22日記事参照)。

(注2)魚の乱獲の主因となっている漁業補助金の禁止や規制については、重要な交渉事項の1つになっている。MC12での合意に向け、2021年5月には加盟国の提案をまとめた交渉用の統合条文案(上記の議長テキスト)が初めて一般公開された(2021年5月14日記事参照2017年12月15日記事参照)。なお、MC12は2020年6月に開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2021年11月の開催予定も含めて2度延期された。2022年6月に開催が予定されている。

(注3)ブラジル政府は2022年1月、同月26日付の暫定措置令1.098/22に基づき、WTOの紛争解決制度が機能しない場合、政府がWTO上級委員会による判定を要することなく対抗措置を発動できるよう国内法を改正した(2022年2月7日記事参照)。同暫定措置例は現在も議会審議中。暫定措置令は1回の延長が可能。延長されて最大120日の間に国会承認されると、恒久法となる。

(辻本希世)

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