正念場迎えるWTOの漁業補助金交渉、議長テキスト公開

(世界)

国際経済課

2021年05月14日

WTOは5月11日、漁業補助金に関する新たな規律の原案となる議長テキスト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公開した。加盟国の提案をまとめた交渉用の統合条文案が一般公開されたのは初めて。

交渉の議長を務めるサンティアゴ・ウィルス(Santiago Wills)氏は今回のテキストについて、交渉の着地点を探るため自身の責任で作成したと説明している。また、加盟国に対しては、テキストを十分に検討した上で次回以降の交渉に臨むよう呼び掛けている。

国連食糧農業機関(FAO)の報告外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、過剰に漁獲されている世界の海洋水産資源の割合(注)は、1974年の10%から2017年には34.2%まで上昇している。過剰漁獲能力や過剰漁獲を防止するため、WTOは漁業補助金を禁止するルール作りを進めてきた。また、持続可能な開発目標(SDGs)では、2020年までに「過剰生産や乱獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・無報告・無制限(Illegal, Unreported and Unregulated:IUU)につながる補助金を撤廃し、同様の新たな補助金の導入を抑制する」ことが盛り込まれている。WTOでは交渉期限を2020年末に設定して集中的な交渉が行ったが、期限までに合意できずに現在に至っている。

今回の議長テキストは全11条で構成している。具体的に禁止する漁業補助金としては、IUU漁業に対する補助金(第3条)、乱獲された水産資源に悪影響を与える補助金(第4条)、乱獲や過剰な漁獲能力に寄与する補助金(第5条)の3類型を挙げている。その他、後発開発途上国に関する規定(第6条)や補助金の通知や透明性に関する規定(第8条)を設けている。

WTOは漁業補助金交渉の期限に関し、2021年7月15日に開催する閣僚級会合(バーチャル形式)までに最終の条文案(final text)を準備するとの方針を示している。オコンジョ・イウェアラ事務局長は、漁業補助金交渉の成功がWTOのルール形成機能の復活につながるとして、その重要性を強調する。交渉の正念場を迎えており、残り2カ月で加盟国がどの程度歩み寄れるか、その動向が注目される。

(注)水産資源が生物学的に持続可能な水準を超えて過剰に漁獲されている状態を指す。

(山田広樹)

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