国内法改正でWTO上級委の判断なしに対抗措置発動が可能に

(ブラジル)

米州課

2022年02月07日

ブラジル政府は1月28日、WTOの紛争解決制度が機能しない場合、政府がWTO上級委員会による判定を要することなく対抗措置を発動できるよう国内法を改正したと発表した。外務省と経済省、農業・畜産・供給省が共同で公式ウェブサイトを通じて発表した。同月26日付の暫定措置令1.098/22(27日に交付)に基づくもので、具体的には、経済省傘下の貿易審議会(CAMEX、注1)が相手国・地域に対抗措置を発動する。物品貿易、サービス貿易、知的財産保護でブラジル側に損害が生じた際にのみ適用される。

WTOの紛争解決処理制度における上級委員会の機能停止の状態(2019年12月12日記事参照)を受けたもの。EUでは2021年2月に域内法の改正が行われ、WTO協定をはじめとする国際通商協定の紛争解決制度が機能しない場合、欧州委員会がWTO上級委の承認なしに、WTO協定税率の適用差し止めなどの対抗措置を講じることが可能となっている(2021年2月16日記事参照)。今回のブラジルの動きはこれに追随するかたちだと、現地法律事務所はみている。

ブラジルは2020年3月、EUや中国、カナダを含む16の有志のWTO加盟国・地域とともに「仲裁による暫定的な上訴制度」に合意した(2020年3月30日記事参照)。これは、上級委が正常な機能を回復するまでの一時的な措置で、WTO紛争解決了解第25条で定める「紛争解決の代替的な手段」に基づき、「暫定的な多国間上訴制度を構築」できるというもの(2020年1月27日記事参照)。ただ、ブラジルが申し立て国となってWTOに提訴したインドネシアなどは当該上訴制度に合意していない。

インドネシアに対しては、同国の輸入許可リスト(ポシティブリスト)に、鶏肉の切り身(HSコード020713や020714)が含まれず、同国における鶏肉や鶏関連製品の輸入は商業相の裁量に服すといった事柄が輸入許可手続き協定や数量制限を禁止するGATT11条などに違反しているとして、ブラジルが2015年10月にWTOのパネル(紛争解決小委員会)設置を要請(DS484)。2017年11月にブラジルの主張を認めるパネル報告書が採択された。しかし、その後も勧告の履行をめぐる協議が続いており、2020年12月にブラジルとインドネシアの双方が上級委に申し立てを行っている(注2)。

1月27日付現地紙「フォーリャ」によると、経済省貿易局長のルーカス・フェラス氏は「上級委が機能していないことにより、さまざまな結論が先延ばしされている」と述べた上で、「今回の動きが損害を被っているブラジルの民間セクターの一助になればと考えている」と補足した。

(注1)CAMEXは、経済省の国貿易国際問題特別局に属し、ブラジル国内で課す諸税率を決定する権限を持つ

(注2)2017年11月にパネル報告書が採択された後、インドネシアは農業省規則の改正などを行った。ブラジルは、ポシティブリスト要件など一部の措置でインドネシアの履行がみられないとして、2019年6月に履行確認パネルの設置を要求。2020年11月、ブラジル側の主張をおおむね認めるパネル報告書が配布された後、同年12月にインドネシアが同報告書の法的解釈を求めて上訴した。ブラジルも同年12月に上訴している。

(辻本希世)

(ブラジル)

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