米国産LNGのEUへの供給大幅増に合意、米国とのデータ移転の新枠組みも原則合意

(EU、ロシア、米国)

ブリュッセル発

2022年03月28日

欧州委員会は3月25日、2030年までの米国からの液化天然ガス(LNG)の大幅な追加供給で合意したとの声明を発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。今回の発表によると、2022年に150億立方メートル分のLNGを、その後は2030年まで少なくとも年間500億立方メートル分を、米国はEUに追加供給するとしている。

EUは、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、2030年までにロシア産エネルギーへの依存からの脱却を目指しており(2022年3月14日記事参照)、今回の発表は、米国がEUの脱ロシア産エネルギーの早期実現を支援するとともに、ロシアへの圧力を強化する狙いがあるとみられる。欧州委は、3月8日に概要を発表したロシア産エネルギーからの脱却計画「リパワーEU」(2022年3月11日記事参照)において、EUの天然ガス輸入の45%がロシア産として、供給元の多角化が急務と指摘。年間1,550億立方メートルほどのロシア産天然ガスの代替供給元の確保を急いでいる。今回の合意により、EUのロシア産天然ガスに対する需要の約3分の1を米国産LNGに置き換える見通しが立ったことになる。

また、EUと米国は、EUの天然ガス需要そのものを減らす必要があるとしており、再生可能エネルギーへの移行に向けて協働を進めるとした。欧州委は、2030年の温室効果ガス削減目標に向けた政策パッケージ「Fit for 55」(2021年7月15日記事参照)の完全な実施が実現できれば、2030年までに天然ガスのEU域内消費量の3割に相当する1,000億立方メートル程度を削減できると試算している。EUと米国は今後、EUの当面のエネルギー需要への対応や、再生可能エネルギーへの移行に向けたタスクフォースを共同で立ち上げる予定だ。

なお、パイプライン経由で輸入しているロシア産天然ガスの一部を、米国産LNGに切り替えることから、欧州委はLNGの貯蔵などの輸入拡大に必要なインフラ整備を加盟国に働きかけるとみられる。一方で、化石燃料であるLNGへの新たな投資と再生可能エネルギーへの移行との整合性については、天然ガスのインフラは将来的にはクリーン水素に転用が可能と述べるにとどめた。

プライバシー・シールドの代替策でも原則合意

両政府は同日、EUと米国間の個人データの移転に関する新たな枠組みとなる「環大西洋データ・プライバシー枠組み」にも原則合意したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。2018年のEUの一般データ保護規則(GDPR)の適用開始により、EUを含む欧州経済領域(EEA)から第三国への個人データの移転が原則違法となったことから、EUは米国と、合法的な個人データの移転を可能にする「プライバシー・シールド」と呼ばれる枠組みを設定していた。しかし、EU司法裁判所がこの枠組みを無効とする判決(2020年7月17日記事参照)を出したことから、代替枠組みの策定が検討されていた。新たな枠組みでは、無効判決で指摘された、米国政府による個人データ保護上の不備が修正される見通しだ。

(吉沼啓介)

(EU、ロシア、米国)

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