欧州委、温室効果ガス55%削減目標達成のための政策パッケージを発表
(EU)
ブリュッセル発
2021年07月15日
欧州委員会は7月14日、2030年の温室効果ガス削減目標、1990年比で少なくとも55%削減を達成するための政策パッケージ「Fit for 55」を発表した。欧州気候法(2021年4月22日記事参照)が6月24日、欧州議会で採択されたことで2030年の削減目標の55%への引き上げが確実となり、「欧州グリーン・ディール」(注)を包括的に推進する同パッケージがこのタイミングで提案された。主な提案内容は以下のとおり。
- EU排出量取引制度(EU ETS)の改正:年間排出枠の引き下げなど現行のETSの強化のほか、取引対象分野に新たに海運を加え、別枠で道路輸送および建物の取引制度を設立する改正指令案。航空機の無償割り当てを削減する改正指令案も別途提案。
- 加盟国の排出削減の分担に関する規則(ESR)の改正:建物、道路および国内海上輸送、農業、廃棄物処理などの産業における加盟国ごとの排出目標を強化する改正案。
- 炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関する規則案:カーボンリーケージ(排出制限が緩やかな国への産業の流出)防止のため、排出量の多い特定の輸入品に対し課金するメカニズムを導入する新規提案。
- 土地利用・土地利用変化および林業(LULUCF)に関する規則の改正:大気中の二酸化炭素(CO2)の実質吸収量(カーボンシンク)の加盟国目標を見直す改正案。森林保全をより計画的で透明性の高い方法で推進するためのEU森林戦略も新たに発表。
- 気候変動対策社会基金の設立:加盟国がエネルギー効率改善の投資を支援するツールとしてEU予算から拠出する基金を新たに設立。
- 再生可能エネルギー指令の改正:2030年のEUのエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を、従来の32%から40%に引き上げる改正案。
- エネルギー効率化指令の改正:EUレベルでのエネルギー利用削減の年間目標を見直す改正案。
- エネルギー課税指令の改正:エネルギー製品と電力への課税をEUの環境・気候変動政策と整合させ、化石燃料に対する直接の補助金の段階的廃止に向けて取り組むための改正案。
- 代替燃料インフラ指令の改正:加盟国が国内法を通じて施策を実施する「指令」から、直接適用される「規則」に変更することにより、代替燃料や充電設備などのインフラ整備に関し拘束力のある目標を導入する規則案。
- 乗用車および小型商用車(バン)のCO2排出標準に関する規則の改正:排出基準を強化する改正案。
- 持続可能な航空燃料(ReFuelEU Aviation)イニシアチブ:持続可能な航空燃料の生産・利用を促進する新規則案。
- グリーンな欧州海運領域(FuelEU Maritime)イニシアチブ:持続可能な海洋燃料の生産・利用を促進する新規則案(既存指令の改正を含む)。
欧州委が「提案は全て結び付いており、補完的な関係にある」と説明するように、今回の政策パッケージは多岐に及んでおり、相互に連関している。しかし大別した場合、発表された法令案はおおむね、改正EU-ETSおよび新たに発表されたCBAMなどカーボンプライシングに代表されるEU独自の枠組みの見直しおよび整備(1~5)、エネルギー利用に関する規制(6~8)、自動車をはじめとする運輸・モビリティ分野の排出削減に関する規制(9~12)の3領域に整理することができる。
ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は同14日、声明を発表し、政策の方向性は正しいとしつつ、「悪魔は細部に宿る」ということわざを用いて、多くの産業に多大な影響を及ぼすことが予想される同パッケージの今後の検証が重要だと指摘した。
(注)「欧州グリーン・ディール」とその関連戦略については、ジェトロ調査レポート「新型コロナ危機からの復興・成長戦略としての『欧州グリーン・ディール』の最新動向」(2021年3月)を参照。
(安田啓)
(EU)
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