欧州委、ロシア産化石燃料への依存からの脱却目指すエネルギー政策発表

(EU、ロシア)

ブリュッセル発

2022年03月11日

欧州委員会は3月8日、2030年までにEU域内のロシア産化石燃料への依存解消と、より安価で持続可能なエネルギーの安定供給に向けた政策文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。欧州グリーン・ディールを掲げるEUは、再生可能エネルギーの域内生産を積極的に推進する一方で、域外からの化石燃料の輸入にいまだに依存している。特にロシアからの輸入は、2021年に天然ガスの全輸入の45%、原油の27%、無煙炭の46%を占めており、その割合が非常に高い。こうした中で、最大の輸入元ロシアによるウクライナへの侵攻と、EUのロシアに対する大規模制裁(2022年3月3日記事参照)により、エネルギー危機は深刻化している。そこで欧州委は、エネルギーの安全保障を確保すべく、2030年までにロシア産化石燃料からの脱却を目指す「リパワーEU」計画の概要を明らかにした。

この計画は、(1)天然ガスの供給先の多角化、(2)化石燃料依存の解消の加速化からなる。(1)に関しては、カタール、米国、エジプト、西アフリカなどからの液化天然ガス(LNG)輸入やアゼルバイジャン、アルジェリア、ノルウェーなどからのパイプライン経由の天然ガス輸入を増加させる。また、2030年までのバイオメタンや水素の生産(2021年12月16日記事参照)のさらなる引き上げを目指す。(2)に関しては、2030年の温室効果ガス削減目標に向けた政策パッケージ「Fit for 55」(2021年7月15日記事参照)の完全実施が実現できれば、2030年までに天然ガス消費を3割削減できることから、欧州委は太陽光、風力、ヒートポンプの推進や、工場の電化や再生可能な水素への切り替えをさらに支援する。欧州委はこれらの政策の実施により、2022年末にはロシア産天然ガスの域内需要を3分の2程度減らすことができるとしている。

エネルギー価格やガス貯蔵に関する新たな対応策も提案

2021年からのエネルギー価格の高騰を受け、欧州委は既に対応策(2021年10月14日記事参照)を発表しているが、エネルギー価格の上昇が続く中で、新たな緊急対応策を加盟国に提案した。欧州委はまず、現行のEU法で加盟国による電力の価格規制と一定の利益の分配が認められることを確認。現在のような例外的な状況では、家庭用と零細企業用の電気小売価格を規制することはできるとした。また、現行のEU国家補助ルールでも、エネルギー価格の高騰により流動性が不足する企業や農家に対して加盟国が一時的な救済措置を提供することは可能だとした。さらに、企業に対するエネルギー価格上昇分の一部補填(ほてん)を認める一時的な危機対応枠組みの設置に向け、加盟国と協議を開始するとしている。支援策の財源に関しては、加盟国に対して超過利潤に対する一時的な課税や、想定を上回っているEU排出量取引制度からの収入の活用を提案している。

さらに、欧州委はEU域内のガス貯蔵施設の事業者に対して、毎年10月1日までに備蓄上限の90%以上の備蓄を義務付ける法案を4月までに提案するとしている。この法案では、ロシア国営企業ガスプロムが域内に所有するガス貯蔵施設の備蓄水準が著しく低いことを念頭に、ガス貯蔵施設を重要インフラと位置付けた上で、域外国の企業が保有する場合に、安定供給に対するリスクがないとの認定を加盟国に義務づける。

(吉沼啓介)

(EU、ロシア)

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