ASEAN主要国の2021年成長率、プラス成長に回復も新型コロナ政策の差で濃淡分かれる
(ASEAN、ベトナム、タイ、フィリピン、シンガポール、マレーシア、インドネシア)
アジア大洋州課
2022年03月02日
ASEAN主要6カ国(シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、インドネシア)の2021年通年の実質GDP成長率の統計が出そろった(注)。「新型コロナ禍」の影響を受け、ベトナムを除いた5カ国でマイナス成長となった前年から回復し、全ての国でプラス成長となった。ただし、成長率には、各国の新型コロナウイルス政策の差が表れた。
各国の成長率を高い順にみると、シンガポールが前年比7.6%(2019年:マイナス4.1%)と高い成長率を記録し、前年はマイナス9.6%とASEAN主要国で最も低い成長率だったフィリピンが5.6%になった(添付資料表1参照)。続いて、インドネシアは3.7%(マイナス2.1%)、マレーシアは3.1%(マイナス5.6%)、ベトナムは2.6%(2.9%)、タイ1.6%増(マイナス6.2%)だった。2021年は、各国でデルタ変異株の感染が拡大したが、厳しい社会経済活動制限措置を敷き、企業の生産活動などにも影響が生じたマレーシアやベトナム、観光業のGDPに占める割合の高いタイで成長率が伸び悩む結果となった。一方、経済維持と感染抑制の両立を目指す、いわゆる「ウィズ・コロナ」政策をとったシンガポール、フィリピン、インドネシアでは経済成長率が高くなった。なお、マレーシアでは2021年8月下旬からワクチン接種率に応じて製造業の操業を認める方針に転換しており(2021年8月24日記事参照)、ベトナムについても2021年10月以降、それまで全国的に適用してきた厳格な社会隔離措置を見直し、「ウィズ・コロナ」を前提とした政策に転換している(2021年10月19日記事参照)。
2021年第4四半期も全ての国でプラス成長
2021年第4四半期の各国の成長率は、そうした政策の転換を受け、全ての国でプラス成長となった(添付資料表1参照)。第3四半期に統計史上初めてマイナスを記録(前年同期比マイナス6.0%)したベトナムは5.2%のプラス成長となり、ベトナムと同じく第3四半期がマイナス成長だったマレーシアがマイナス4.5%から3.6%に、同じくタイがマイナス0.2%から1.9%にプラス転化している。
半数の国は「新型コロナ禍」前の水準に回復せず
なお、各国の実質GDPを「新型コロナ禍」前の2019年の水準(2019年=100)と比較すると、添付資料資料表2のとおり、ベトナムが105.6、シンガポールが103.2、インドネシアが101.6となり、「新型コロナ禍」前の水準を超えている。一方、マレーシア(97.3)、フィリピン(95.5)、タイ(95.3)の3カ国は、依然として「新型コロナ禍」前の水準には至っていない。
2022年は各国際機関が比較的高い成長を予測
2022年の成長率については、各国際機関が各国でのワクチン接種率の向上などの要因を踏まえて、比較的高い成長を予測している。IMFは1月25日、シンガポール、ベトナムを除く4カ国について、フィリピンが前年比6.3%、マレーシア5.7%、インドネシア5.6%、タイ4.1%との予測を発表(2022年1月27日記事参照)。また、世界銀行は1月11日、シンガポールを除く5カ国について、フィリピンが5.9%、マレーシアが5.8%、ベトナムは5.5%、インドネシアが5.2%、タイが3.9%との予測を発表している(2022年1月19日記事参照)。
(注)各出所は以下のとおり。マレーシア:マレーシア中央銀行/統計局、フィリピン:フィリピン統計庁(PSA)、シンガポール:貿易産業省(MTI)、タイ:タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)、インドネシア:インドネシア中央統計庁(BPS)、ベトナム:ベトナム統計総局。
(三木貴博)
(ASEAN、ベトナム、タイ、フィリピン、シンガポール、マレーシア、インドネシア)
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