超高強度レーザー研究所、EU基金を活用し保守・拡張を計画

(ルーマニア)

ブカレスト発

2022年02月01日

レーザー光の世界最高出力、10ペタワット(PW、ペタはテラの1,000倍)を誇る、ルーマニア・ブカレスト南部のマグレレ地区にある超高強度レーザー科学研究所(ELI-NP、イーライ・エヌピー)が実験稼働後2年を迎える(2017年5月12日記事2018年10月5日記事2019年3月29日記事参照)。外部ユーザーに実験機会を提供するフェーズIIオペレーションに移っている一方、日本製を含む機器部品は交換期を迎えている。

欧州地域開発基金とルーマニア政府が約3億5,000万ユーロを投じて2013年に着工したこの研究所は、自前の地熱発電所で電力を確保し、免振装置に支えられた建屋が2016年に完成、その後実験装置が搬入され、2020年3月に、最初の小規模な実験が実施された。以来ほぼ2年間、実験が大型化、多頻度化するにつれ、消耗品である反射鏡など日本製を含む光学部品は既に交換期を迎えている。

2021年までELI-NPの所長を務めた、ELI-NP研究所 研究顧問で大阪大学レーザー科学研究所の田中和夫特任教授は2022年1月26日、ジェトロに対し「ELI-NPは現状のままでもあと数年、世界首位を維持できるが、日本の科学技術を維持・向上させるため、日本の光学・機械加工メーカーがEU域内で開発・生産するなど事業展開を真剣に検討してくれれば、日本・EU双方の競争力底上げに貢献するはずだ」と語った。

大型レーザー装置開発を40年以上手掛けてきた、同じく大阪大学レーザー科学研究所の實野孝久特任教授は「ELI-NPを改良できるアイデアが多数あるのだが、実現のためにはガス中のコンタミネーション(異物混入)排除、プレス・切削・コーティング・研磨・計測・非破壊検査(注)といった多くの機械技術を導入しなければならない。一方で、外資企業がルーマニアで公共調達プロジェクトを落札するにはまだ多くの非関税障壁があり、ルーマニア政府にその負担軽減策を求めたい」と述べた。

カリン・ウルELI-NP所長は、世界各地でレーザー装置の新設が相次ぐ中、中核部品の反射鏡など光学製品の価格が上昇しており、ELI-NPの反射鏡を交換するだけで少なくとも100万ユーロを要すると述べた。今後さらに、隣接地に1,000万ユーロ規模の光学研究所を建設する計画があり、早急にEU基金を申請、確保し、入札を実施する必要があるとした。

欧州委員会はルーマニアに対して、総額292億ユーロ規模の「国家復興・レジリエンス計画(PNRR)」基金の前払い分を拠出(2021年12月16日記事参照)、ルーマニアではこれに伴いインフラ建設の参入機会が増大している。ジェトロは「ルーマニアにおける公共調達ガイド(2018年2月)」でインフラ参入の参考情報を提供している。

写真 長さ70メートルにおよぶELI-NPの世界最強10PWレーザー光装置(ELI-NP提供)

長さ70メートルにおよぶELI-NPの世界最強10PWレーザー光装置(ELI-NP提供)

(注)検査対象物の形状や機能を損なうことなく、欠陥や劣化の状況を検査する手法。放射線や超音波などで検出する。

(西澤成世)

(ルーマニア)

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