ADB、アジア新興地域の2021年と2022年成長率をともに引き下げ

(ASEAN、ベトナム、タイ、シンガポール、インドネシア、マレーシア)

アジア大洋州課

2021年12月17日

アジア開発銀行(ADB)は12月14日、「2021年アジア経済見通し」の補足版外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、アジアの新興国地域(注1)の2021年の経済成長率を7.0%、2022年を5.3%と、前回2021年9月発表時(2021年9月29日記事参照)よりそれぞれ0.1ポイント引き下げた。地域別でみると、2021年の予測は中央アジアを除く全ての地域で引き下げとなった(添付資料表参照)。

ADBは引き下げの要因として、新型コロナウイルスのデルタ株による新規感染の急拡大と、オミクロン株の出現により、経済の回復に不確実性が増したことを指摘した。また、成長見通しに関するリスク要因については、依然として、新型コロナウイルスの感染者の増加と説明。アジア地域のワクチン接種率については、2021年11月30日時点で48.7%(規定のワクチン接種を完了した人の割合、注2)と前回9月発表時(28.7%)より大幅に上昇しているが、米国の58.1%、EUの67.2%に比べるとまだ遅れているとした。また、アジア域内において、シンガポールは全人口の91.9%が接種している一方、パプアニューギニアでは2.2%と低く、地域内でも大きな差があることを指摘した。

東南アジアでは、ベトナムとマレーシアが引き下げに

東南アジア全体の2021年の成長率予測は、デルタ株による感染の急拡大により、経済活動の制限措置を課したことで、前回発表(9月)から0.1ポイント引き下げた3.0%と予測した。一方、2022年については経済活動の制限措置を緩和し、経済活動が回復するとの予想から前回発表より0.1ポイント引き上げた5.1%と予測した。

東南アジア主要国の2021年の見通しについては、第3四半期に入り経済制限措置を強化したマレーシア(3.8%、前回発表より0.9ポイント減)とベトナム(2.0%、1.8ポイント減)について、第3四半期の経済が減速(注3)したことを受け、下方修正した。

一方、シンガポール、フィリピン、タイの3カ国は、2021年第3四半期の成長率が予想よりも上向きだったことで、予測値を引き上げた。「ウィズコロナ」の政策にシフトしたシンガポールは、前回発表より0.4ポイント増の6.9%と予測した。また、2020年に厳しい経済制限措置を課し、ASEAN主要国で最も低い成長率(マイナス9.5%)を記録したフィリピン(2021年2月19日記事参照)は、民間消費と民間投資の回復により0.6ポイント増の5.1%とした。タイは、新型コロナウイルスの感染再拡大により個人消費が落ち込み、観光産業も引き続き低迷となるも、輸出や民間投資などの拡大により、0.2ポイント増の1.0%との予測となった。また、インドネシアは、前回から据え置きの3.5%の予測だった。

(注1)アジア大洋州地域のうち、以下の46カ国・地域。

東アジア:香港、モンゴル、中国、韓国、台湾

東南アジア:ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、東ティモール、ベトナム

南アジア:アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン、インド、モルディブ、ネパール、パキスタン、スリランカ

中央アジア:アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン

大洋州:クック諸島、ミクロネシア、フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ナウル、ニウエ、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ

(注2)ワクチンの種類に応じて、必要な回数の接種を完了した人数(例:2回の接種が必要なワクチンであれば2回の接種を完了した人数)。

(注3)ASEAN主要6カ国の第3四半期のGDP成長率の動向については、2021年11月25日記事でまとめている。

(三木貴博)

(ASEAN、ベトナム、タイ、シンガポール、インドネシア、マレーシア)

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